夢絆

□ちゃんと向き合って伝えてみて
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「わかりました!」
「なにがだよ。」

あれから後日。
再び出逢った華南は此方に見向きもせずに、ただペンギンの事を真剣に思い悩んで黙り込んでいるばかり。
だがお互い黙っていれば、そのうちにやっと結論が出たのか、華南が両手をぱんっと叩いて声を張り上げた。
冠葉はそれに気だるげに振り返る。
すると彼女は自信満々に胸を張って堂々と冠葉に告げた。

「これはつまり私の冠葉君に対する愛情の表れなんです!
きっと私が冠葉君に寄せる愛情が大きすぎて、その恩恵で冠葉君にしか見えないものも、私に見えるようにな……あれ?冠葉君、どうかした?」

惜しげもなく、恥ずかしげも無くそんな馬鹿な事を垂れ流す華南に、冠葉はがくりと肩を落として項垂れる。
ふるふると怒りなのか、それとも別の意味なのかで震える手を押さえながら、じろっと睨むように華南に振り返った。

「凄いね愛の力って!あ、痛ぁッ!!」
「俺はお前のその発想の悪さが果てしなく凄くて恐ろしいよ。」

それでも尚うっとりとして未だに「愛の力」とやらを信じて続けている彼女の後頭部に、遠慮なく攻撃を叩き込む。
と言っても先程取った景品のピコピコハンマーを介しての事なので、対して大きなダメージには至っていないが。
華南はううと半泣きで頭を摩るも案の定直ぐに立ち直り、ぐっと片手を握り締めて瞳を輝かせる。

「大体お前だけじゃなくて弟や妹も見えるし。」
「えっ、家族にだけ?!…じゃあ私は嫁の立場ですか……って、ストップ!流石に二回目はちと痛いかなー!流石の私も破裂しちゃうかなー!」

浮かれ半分で更にくだらない事をさらっと口から吐き捨てる華南に、冠葉は無言でハンマーを再び持ち上げた。
その行動にぎくりと怯えた彼女は引きつり笑いをして、まるで馬でも落ち着かせるかのように冠葉に対してどうどうと両手を振る。
冠葉はひとつ溜息をつき、腰に手を当ててハンマーを自身の背中に張り付いていた一号へと手渡した。

「ったく…つまんねー事言ってないで、きちんと原因をだな…」
「いやっ。私が考える原因って言ったら確実にそれしかないですよ!っていうかさ、違う理由だったとしてもそう言う風に考えた方が素敵じゃないかな?
愛しすぎたあまり、彼の目に映る世界すら見えるようになってしまったなんて…いやあ、乙女チック!」
「自分で言うなよ。」

びしりとその額に再度すかさずデコピンを入れる冠葉。
全く夢見がちな事を言う華南にほとほと呆れを催した。
けれども彼女は真面目に、真剣にその説を押し通し、声高らかにしていたのを少し落ち着かせてふとぽつりと穏やかに零す。

「っていうか…まあ、その。私が思いたいだけなんだけどね。そんな風に。
その方が冠葉君と繋がってる感じがして嬉しいなーって。

…なんと言いますか、冠葉君ってわかりやすい性格しているようで実は結構複雑っぽいかなー?違うかなー?なんて最近思い始めまして。
実は軽そうに見えて根っこは一直線っぽくて、でもわざとそんな自分を隠しているような所が、冠葉君ありそうじゃない?」

徐々にぼそぼそと零す華南の発言に、冠葉はきょとんと目を丸くする。

「……なにを、」

華南の発言はほぼいつも通りであるのに、けれどもいつも通りよりもはるかに大人しくていつもよりも真面目な気がしたからだ。

「や、ややや。あくまでも私の勝手な想像ですよ想像。
…だけど、実際冠葉君、口では私の事色々言いながらなんだかんだで付き合ってくれると言う複雑で不器用な優しさを持っているじゃないですか。

だから…もしそうだったらしがみ付いてでも付いていきたいな、尚更冠葉君の事好きだな。
少しでも同じ世界を見えていたらそれだけ視野が広がって冠葉君の考えてる事少しでも多く分かるかな、わかりたいなぁ。って思って………はは。
まあそんな私の馬鹿な妄想+思い込み+なにか?が巻き起こした結果の愛の力なのでは、なんて、思って、口にしたの…でした。はい。はははは……」

何気なくその表情を見れば、華南は困ったように眉を下げて、恥ずかしそうに頬を朱色に染めていた。
散々見てきたその表情がなんだか一瞬可愛げがあるように見えて、冠葉は不思議と気恥ずかしくなる。
また、あんな事を発してしまった華南自身も珍しく恥ずかしさと臆病風に吹かれていた。
自分が思わず吐いた一言で彼がまた嫌な気になっていないか。また彼が「その乙女チック発言やめろ」とうんざりしていないか。
でも今放った言葉に一切嘘偽りなどはなくて、寧ろ伝えたい事の十分の一くらいを口にしただけで。
そんな風にもやもやとする思いを互いに抱えていれば、やがて冠葉の方が先に口を開いた。

「…お前、確実に馬鹿だろ。」

狼狽し、導き出した結果、冠葉はいつも通りに彼女を罵る言葉しか発することが出来なかった。
だがその冠葉の声色にはいつものような拒絶の色は無く、華南は一瞬でそれを見抜いて持っていた恐怖の感情を瞬く間に拭い去る。
はっとして冠葉を見上げて、そこにあった彼の困ったような恥ずかしげな表情に目を瞠り、直視できずにすぐに顔を俯かせて微笑んだ。

「……冠葉君馬鹿です。」
「やめろ、そこで俺を出すのは。」
「だって…私は冠葉君が好きなんだから仕方ないじゃ、」
「もういいっつの、やめろ。」
「いっつも冠葉君しか考えられな、むごーッ。」

これ以上口を開かせておくと更に恥ずかしい事を言いかねない。
そう判断した冠葉は無理矢理華南の口を掌で塞いで深い溜息を吐いた。

◆そんだけ貴方の事見てるって事

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