夢絆

□ふわふわとした、そんな気分
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穏やかな気持ちだった。
それはいつものように退屈に蝕まれるものではなく、それはいつものように平凡に塗れた事は無く、ただただ安穏としている感情。
けれども確かに胸の鼓動は響いている。
いつもの意味と、そしてまた別の意味で。

そんな気持ちを自分に作った原因は、間違いなく一人の少年だ。

逃げても逃げても、必ず追いかけてくれる少年。
自分が幾らどれだけ遠くへ逃げてもやっぱり追いかけてくれる彼が、嬉しくて心が弾んで、仕方なかった。

明日は何の話をしようかとか。
明日はどんな風に逃げようかだとか。
明日は何処まで追いかけてくれるんだろうかとか。
明日はちょっと手加減しようかななんて。

そんな風に、明日の事を考える事がたまらなく楽しくて仕方なくなった。
今までそんな事を思うことすらなく、ただ目先の妄想に走るばかりでそのひと時を満足させていただけだったと言うのに。
ただ、彼の事を考えるだけで一秒所か、その日一日すら満足するようになった。

早く、早く、と次の日が待ち遠しい。
早く、早く、と逢いたいと思う時間が増える。

でも決して表情には出さない。
だって恥ずかしいから。そこに至るまでにはまだ踏み出す事が怖いから。

拒否されて、否定されて、拒絶されるのはやはり恐い。
それが今、こうして毎日毎日考えている相手ならば尚の事。

彼がそんな人間ではない事を気付いている。
けれどもやっぱり何処か恐い。
だから、今はまだただの変人女で頑張ろう。

そう頭の中で区切りをつけて、折角教えてもらった彼の名前をやっと口に出して呼ぼうと意気込む。

瞼を開けばそこはいつの間にか彼と出会うはずの通学路。
あと少し、自分が足を進めれば恐らくそこに彼は居る。
早く来ないかな。早く今日も逢えないかな。
そんな風に足を動かして、そんな風に、笑う。

そしていざ出会ったら、…やっぱり逃げ出そう。
きょろきょろと辺りを見て、自分を発見する晶馬が微笑み、そうして見つかった瞬間に何も見なかった振りで来た道を戻る。

「ちょっ、…もう、華南さん!!!」

そんな風に慌てる彼を見るのも、やはり「好き」だからだ。

◆多分今これを、幸せと言うんだ。

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