夢絆

□以心伝心、と勝手に思います
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わかっていますとも、ああわかっていますともさ。
彼が家の事情で大変な事も、自分に割く時間も中々ない事も。
きちんと彼の事情は把握しているし理解しているとも。
しかしだ、やはり自分とて諄々たる乙女である。
恋人同士の定番となるデートなんてものも夢見たいなとか、一度で良いからそういうの経験してみたいなとか、そんな事を思ったりもする。

だがしかし現実ではこうして彼の家の茶の間で互いにお茶を飲んでいるだけで、進展はなし。

「華南、お茶のおかわりいる?よかったら入れてくるよ。」

あ。どうも、と一応ぺこりと頭を下げる。
晶馬はにこりと笑顔のまま静かに立ち上がってお盆を持っていった。

…一番悪いのはまず自分だ。
なんのかんのと言いながら結局何一つとして夢を口に出せず、果てにはこんなひと時を過ごすのも悪くはないと感じているのだから。

正直な所をいえばあれやこれやと夢を馳せるが、結局は彼と居られればそれだけで十分であったりするのだ。
彼は決して普通の恋人同士のように過剰に自分に愛の言葉をくれることはないけれど、その分行動で十分に示してくれるし、素直に訴えれば答えてくれる。

まるで、ぜんまい仕掛けのロボットのように。

だから、余計に言えなくて、わがままを言うのでさえ憚られ、結局なにもかもに目を瞑る。
無理をしている彼に、これ以上無理をさせたくはないからと。

戻ってきた彼が自分の前にお茶を置く。
自分は再びそれをぺこりと頭を下げて受け取り、熱さを証明する湯気をふーふーと吹いて冷ます素振りをした。

「…あのさ、華南。唐突なんだけど、」

ちょこんと隣に座って大人しくなるなり、唐突におずおずと口を開く彼。
先程の穏やかな雰囲気とはまた一段と違ったその様子に、おやと自分は瞬きを一つ。
見れば晶馬は、言い難そうにしてあちらこちらに目を泳がせていた。
…なんだ、何か大変な事なのか。と不穏な気は感じないが、警戒はしてしまう。

「…今度さ、何処か遊びに行かない?あ、勿論その、二人。二人で。
こ、この間兄貴と陽毬に話したらさ、何処にも行ってないなんて馬鹿か。って逆に怒られちゃって…だから……

……ど、何処だって良いよ!景色の良いところでも良いし、ショッピングとかでも付き合うし、…華南の好きな所なら、どこでも!
だから……だ、駄目、かな……。」

真っ直ぐに此方に視線を向けた晶馬は、真剣な顔つきで眉を吊り上げている。
あまりに必至に見えたその様子に、自分はただ面食らう。
そのいつに無く余裕の無い様子や、先程まで自分が考えていたことを彼が口にした事にも。
なんだ。同じ事を考えていたのかと思わず、ぷっと噴出してしまいそうになった。

断る理由が見つからない。

即座に言えば、晶馬はほっとしたように、けれども心底嬉しそうに笑顔を浮かべた。

…そんな貴方が、私は大好きなんだ。

◆幸せなバカップル日和

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