奔放なんだぜ

□そのさり気無さは罪
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「なんのかんので華南ちゃんとかんちゃんが、一番一緒に居て楽しそうなんだよね。」

持っていたミルクティーを一旦口から話して、陽毬は店内で会計を済ませている兄と姉の姿をじとーっと意味深に見つめていた。
その隣で自分はコーンポタージュを飲みながら、妹が気にした方角に視線を向ける。
こうして傍目から見れば兄と姉は、もしも例えるのだとしたらば異性の友人のようで。あるいは先輩後輩。あるいはちょっと歳の違う従兄妹とかにでも見えるような。

「なんだかかっぷるみたいだよね。」

…陽毬さん。

自分があえて外していた部分をさらっと口にした陽毬に、がくっと肩の力が抜ける。
流石に一応は家族なんだからその表現はどうかと思うが。
ちらと陽毬のほうへと視線を向けると、陽毬はくるっと此方に向いて突如力説し始めた。

「だって聞いてよ陽介ちゃんっ。
さっきもね、かんちゃんってば何かと華南ちゃんの意見を却下して反論するくせに、結局は華南ちゃんの意見を参考にして必要なもの買うんだよっ。
だったら最初から華南ちゃんの事あんなに怒らなくても良いのに…。

しかも!肝心な時にはああして陽毬達は大変だから。とか言って仲間はずれにするんだよ。」

まあそれは、単純にお互い陽毬の事を心配しての気遣いだと思うけれど。
長時間、がやがやとする店内で待たせるよりか外の空気を吸ってこうして気分転換に飲み物を飲んでいるほうが幾分か楽だろうと判断した冠葉が、単純に気を利かせただけなのだ。
また、姉とてそれが賢明な判断だと陽毬の身体を気遣っただけで、どちらも彼女の事を仲間はずれにしたような事はきっとない。

と、言いたい所であったりするのだが。
今の陽毬の拗ねた様子を目にしていれば、それを素直に口にする事も憚られた。
だってなんだか今の陽毬は、兄達二人に劣等感を抱いていた自分とそっくりに見えてしまったのだから。
例え本心はなんだろうとも、二人の事を羨ましいと思う気持ちは変わらないし、羨ましい自分の気持ちはどんな気遣いを知っても拭えない。
その気持ちがよくわかるから、あえて自分は何かを言うのをやめたのだ。

「…いいなぁ、二人とも。なんだかまるでお似合いの恋人に見えるもん。」

はあ、と軽く意気消沈した様子の陽毬が溜息をつく。
じっと彼女が眺めるのは兄か、それとも姉かは定かではなかったが、なんとなく答えは理解できるような気がして、けれども知らぬ振りをした。

…なら俺達はどうなんだろう。

ぽつりと自分がそう呟くと、ぴたりと陽毬の言葉が止んだ。

「………え、……」

呆けて口を開いた陽毬はゆっくりと此方に振り返って、目をぱちくりとさせる。
その表情を見て、自分はとんでもない事を言ったのに気づいてハッとした。

………すまん。いやその、なんか、ごめん。

陽毬に負けず劣らず爆弾発言をした自分に、言った後で後悔する。
冷静になれば直ぐに羞恥に駆られて、ぱっと彼女から顔を背けた。
いや、ちがう。ええとこれは、その。
ようするに、だ。単純に深い意味はなくて、あくまでも冗談。

陽毬が兄と姉の二人を恋人同士と揶揄したように、自分もそう言う意味で茶化すように口走ってしまっただけで。
他意なんて、決してなくて。

そう心の中で誰に対して言っているのか分からぬ言い訳を繰り返せば、どんどんとドツボにはまっているような気がして自分は無言を貫く。
陽毬も陽毬で笑い返してくれれば良いものを、何故かそこで黙り込んだまま続きを告げようとしてくれない。
気まずい空気が流れる中、聞きなれた靴音が此方に駆け寄ってきた。

「おーい、遅くなったね。お前達大丈夫?」

空気読め、そこの原始人。
いや…読まなくて、よかった、のか?

能天気に入り込んできた声の持ち主に直ぐに気付くと、自分はパッと顔を上げて振り返る。
そこには案の定能天気に笑う姉と、その後ろを少し離れながら歩く仏頂面の兄の顔が見えた。

姉の声に反応を見せた陽毬もやっと其方に顔を向けてほっとした表情を浮かべる。
しかし自分と目が合うと、直ぐに俯いてしまった。

……自業自得とはいえ、ちょっと痛い。胸が。

「あれ、陽毬どした?待たせすぎちゃったか?」
「う、ううん!全然っ。…でも、ちょっと待ったかも…。」

心配げに姉が陽毬の顔を覗き込めば、陽毬はふるふるとかぶりを振って笑みを浮かべる。
するとひしっと姉の腕に抱きついて、すりすりと頬を摺り寄せた。

「よかったな、陽介と陽毬。浚われてなくて。
お前達は街中でも一段可愛く見えるから、変なおじさんにさらわれてないか心配だったんだぞ。
さてはその飲み物も誰かに貰ったか?」

そんな此方の気も知らずに冠葉はぐりぐりと自分の頭を撫でて来て、鬱陶しいと自分がそれを振り払う。

なわけあるか。自分で買ったんだよ。

「おおっ、偉いな陽介!自分でちゃんと買えたか。
ここの自販機、背の低いお前には少し高めで大変かもしれないって思ったんだが…その分だと心配しなくても平気だったようだな。」

大きなお世話だ馬鹿。

表情を輝かせて、まるで赤子に対するように褒めたてる冠葉にむっとする。
にやにやとする冠葉の笑顔がなんだかくさくさとして、話を逸らす代わりにあてつけがましく姉と兄に、

なにか飲み物買ってこようか。

と、尋ねて見た。
すると、姉と兄は二人とも首を左右に振って大丈夫だと伝える。

「調度さっき、冠葉が出口で買ってくれてね。」
「まあ。物欲しそうに飲み物見てる馬鹿がいたし。」

姉は持っていた鞄からペットボトルと缶を取り出すと、ペットボトルを冠葉に手渡した。冠葉がそれを難なく受け取ったのを目にして、自身は黒いパッケージが印象的な珈琲を改めて手に持った。
その二人の飲み物に若干違和感を感じて、ふと冠葉の持った飲み物に目を凝らす。
見ればそれは新発売のレモンティーとやらで、実に彼らしくない選択だな。と思って自分はふと不思議になった。

自分達に倣い姉と兄もペットボトルと缶の蓋を開けて、一口飲み込む。
冠葉は直ぐに口を離して、不思議そうな顔で自身の缶を見ていた。

「冠葉のそれ、新発売かい?」

すると、自分同様冠葉の飲み物が気になったらしい姉が首を傾げて兄に尋ねた。兄は顔を上げると、苦笑しながらペットボトルを揺らす。

「さあ…よくわからんけど、珈琲と間違えて押したらこうなった。」
「あははっ。面白いねえ。」

それは冠葉が面白い奴だという事なのか、それともその飲み物が面白いのか。恐らくは後者に対してだと思うが、姉は余程それに興味を惹かれたらしく、ふむと暫く考え込んでから自販機の方に目を向けた。

「コレ飲んだら私もそれ飲んでみよう。」

姉は自分の財布を取り出して、中身を開くと小銭を探し始める。
だが、そんな彼女の目の前に冠葉が自分の持っていたペットボトルを差し出した。

「ほら、無駄遣いしなくても俺のやる。」
「…え。でもこれ、お前のだろ。」
「俺はお前ので良いよ。そっちが本命だし。」

言って、冠葉は姉の持っている珈琲を奪い取り、自分の持っていた新発売のレモンティーを彼女に押し付ける。
姉はきょとんとしながらも両手でそれを受け取り、暫し首を傾げてから気恥ずかしそうに笑みを浮かべた。

「…ありがとう、なんか悪いね。」
「今更だろ。次で借り返せよ。」

姉は嬉々としてペットボトルに口をつけ、兄は少し躊躇いがちに恐る恐る缶に口をつけていた。
その際両者共々僅かに頬が朱色に染まっていたように見えたのは目の錯覚か否か。…きっと目の錯覚に違いないと思いたい。

……ここで一つ言いたい事があるんですがね、兄と姉よ。

あんたらさり気無くやってるけど、それ要するに関節キスだからな。

それをじっと見ていた陽毬がやがて自分の方に振り返り、がくっと肩を落とした。

「陽介ちゃんっ、私も新作買えばよかったよ……!」

……陽毬。

◆誰かこの兄と姉殴ってください

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