夢幻世界

□愛しの彼女に敵わない
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「ひどいんだよ、かんちゃんとしょうちゃんったら。」

自分の胸に寄りかかりながら、寵愛する姫様は可愛い顔を歪めてむうと頬を膨らませる。

「学校をお休みどころか私の電話にもまともに取り合わないし。」

あの兄弟がひまりの電話を取り合わないとは、そりゃ珍しい。
そう驚く自分が何処にも行かないようにとしっかり服の裾を握り締めて、兄弟への怒りを表にする。

「もう、かんちゃんもしょうちゃんなんて許してあげないっ。今日はご飯抜きにしてやるっ。」
「ご飯抜きは…ちときついんじゃないかなー、せめて締め出しとか…って俺が提案することじゃないな、ねえひまり。」

やっと口を開いた此方にん?と小首を傾げるひまり。
その彼女の仕種にちょっと怯むが、直ぐに首をぶんぶんと左右に振って本題に入る。

「俺そろそろ帰らないと不味いんじゃないかな?」
「どうして?」
「いや、どうしてって…俺はスーパーで買った食材を届けに来ただけだし。
用がなくなったら即帰れって言われてるし…」

というか、既に帰宅する時間をオーバーしてここにいる事でかんばには殺されるのは確定だけれど。と心の中で苦笑する。
するとひまりは「帰れ」と言う言葉に即反応を見せて、頭を胸に押し付けるといやいやと首を左右に振った。

「いいのっ。陽介ちゃんは私が勝手に引き止めてるのっ。だから陽介ちゃんは悪くないのっ。」
「いやでもそれだと後でひまりが困るんじゃ、」
「かんちゃんもしょうちゃんも勝手なことしてるんだから、陽毬だって勝手に彼氏を家に呼び寄せる不良な事しちゃうもんっ。」

そのか細い手に更にぎゅうっと力を込めて、此方を話さない態度を取る彼女に不覚にも胸がどきりと音を立てた。
ああもう、可愛いなこんちくしょうっ。
なんかもうこの子の可愛さは一体何処から来てるんだ。確実に計算的に自分を落としにきてるとしか思えないんだけど。
だが、デレっともしていられずに、直ぐに思考を直して「いやいややっぱり」と彼女に赴く。

「でも約束破る事になるし、帰らないと…」
「だーめっ。今日は一日陽毬に付き合ってもらいますっ。陽毬デーセカンドですっ。」

陽毬デーって一日で終わりじゃなかったの?!と言えば、
彼氏専用のイベントです。と可愛らしく彼女が自分の胸に頬を擦り付ける。

「彼氏専用の陽毬デーでは、ずうっと陽毬に愛を語らなければならないのです。」
「愛を語るって…どうやれば満足なの?」
「静かな木漏れ日に囲まれて、恋人同士は愛を語るのですってテレビでやってたよ。」
「またどんな番組を見たんだか…そういや、なんか静かだと思ったら…どうして三号にだけご飯作ってあるの?」
「三ちゃんに取られたくないもん。」

何を。とうっかり聞けば、むすっとしたように此方を抱きしめる手に力が込められた。
無粋な事を聞いたかな、と漸く気付いた時には「三ちゃんはご飯にだけ興味を示して居ればいいのです」と言いながら、すぐにえへっと笑ったひまりに更に可愛さが増幅する。
そしてふうと耳に息を吹きかける位の近さで彼女は囁いた。

「だいすき。」

柔らかな声は鼓膜を刺激し震わせ、脳髄にまで入り込んだ。

「ひ…」
「だーいすき」

もう一度、今度は面と向かってそう自分に言うと、ひまりは僅かに頬を染めて微笑んだ。
どんどこと激しく胸を叩いてひょっこり現れそうになる理性を必死で押さえ込んで、息を吐く。

「…もう、このお姫様は。」
「陽介ちゃんは?」

すかさず、きょとんと首を傾げて少し弱気に聞いてくる彼女。
今か今かと返答を待ちかねている反面、嫌がられていないかと少し遠慮がちになっている。
そんな彼女にくすっと笑って、「わかってるくせに」と意地悪そうにはっきり告げる。
そしてお返しに彼女の耳に吐息を吐いた。

「俺はひまりを愛してます。」

◆幸せなひと時。でもこの後三号襲来。

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