我が家のサーヴァント達
□誰かを愛する君を愛する
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此処で彼女に出会えたことは恐らく今までの自分の人生における最大級で最高値の幸福だったに違いない。
否、間違いなく、そうであったのだ。
この家に召還された騎士王の様子を眺めようかと外に出て、気付けば踏み入り談笑をしてしまった後の話だ。
この家の事。主への不満。彼、及び彼女の話を幾つか耳にして一旦離れたその直後、彼女を見つけたのは偶然だった。
白いじゅうたんのようなその場所で、思わず立ち止まり、佇む白い影を眺めた。
純粋に、美しいとその姿に目を奪われる。
白く透き通る繊細な肌。穢れなきあどけない丸い瞳。
風に揺られて靡く絹糸のような髪に、ぞくりと背筋に刺激が走った。
こうしてただ眺めているだけでも、自分の空っぽな心は満たされる。
その総てが自分にとっては砂漠におけるオアシスのような存在だったから。
白銀の世界で佇む彼女に一体何をしているのだろうか、と漸くそこで疑問を抱く。
はたと遠目で彼女の視線の先を見れば、彼女の瞳が示す先にはこの家の二階に値する窓から覗く影が見えた。
薄暗く真っ黒な、それこそ闇と言うに相違ない文字通りの影。
その男はゆらりと僅かに漆黒の衣装をはためかせると、ガラスの窓からじっと下方の白銀を見つめていた。
交差するその互いの視線には、何を疎通させているのかわからない。
だがしかし、少なくとも自分が眺めている近しい女性の方は男を信頼と愛情の眼差しで眺めているのは確かだった。
何処と見せかけ愛する男を眺めるその彼女の視線に、おこがましくも少しでも自分が混ざりたいと欲と嫉妬を抱く。
だがしかし、そこに自分は染まれぬとすぐに理解し、熱を消した。
わざと音を立てて、雪の中を歩き彼女の背に近づく。
アイリスフィールは一度瞼を開閉させると、恐る恐る此方に振り返った。
「陽介…?」
それに答えず、自分は着ていた上着を彼女にかける。
「風邪を引かれても困るので」
「あら…優しいのね。」
白魚のような彼女の掌が無骨な自分の手に触れる。
触れられた途端、その部分が熱を持ったような錯覚を起こして、ずきりと大きめに自分の心臓が鳴いた。
ちらり、と目線を上に上げれば一室の窓の中から冷たく射抜く黒い男の瞳とかち合った。
まるで頭上から額を矢で射抜かれたような、そんな衝撃を受けて自分はその場に立ち尽くす。ぞくりと感じるよりも、恐怖する前に息の根を止められたような気がした。
「そろそろ中に戻りましょうか。」
その声がなければ、恐らく自分は彼に視線だけで殺されていた事だろう。
緩やかな彼女の声に我に返り、途端に意識を取り戻して彼女から離れた。
アイリスフィールはやはり何も知らぬ少女のような笑みを浮かべて、無邪気に此方に微笑みかける。
自分はそれに一抹の眩しさを覚えながらも目線をあわさず返事を返した。
「…はい。仰せのままに。」
そう答えて再び、確認と恐いもの見たさで視線を上に上げれば、そこにはもう影は忽然と消えていた。
ほっとする半分、後で一言嫌味を言われるだろうなと予感する。
だが同時に、先程の威圧感できちんと彼は彼女を愛しているのだな、と安堵した。
◆でないと、僕は貴方を殺していた。