我が家のサーヴァント達

□夫の牽制、彼の疑念
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「陽介、突然だが君にはアイリとセイバーの方に護衛としてついてもらう。」
「…それは、どういう。」

彼の部屋にて、そんな申し渡しをされた陽介は普段なら素直に同意するものをすぐに頷けず、失礼ながらに彼に尋ねた。
窓の外をぼんやりと眺めていた切嗣がきろっとした瞳だけを此方に向けて、むすっとしたような表情をやっと覗かせた。

「…アイリが、」
「はい。」

そこでその名前が出て来た事に僅かに心動かされるも、素直に驚きながら話を窺う。
切嗣は怪訝そうに顔を歪めてから溜息を吐くように続けた。

「アイリが、どうしても君と外出したいといって利かなくてね…普段から楽しそうな顔一つもしない君を哀れんで、折角だから外の世界で新鮮な空気を吸って気分をすっきりさせて欲しいとの事らしい。」
「はあ、」

恐らくは普段から楽しそうな顔一つもしない、の辺りは彼の私的発言だろう。陽介はそれを察しながらも、的を得ない顔で曖昧に返事をした。

「僕は出来るなら彼女の願いは聞きたい。聞いてやりたい。
しかし…正直言って、魔術も、ましてや筋力とて然程でもない。見るからにして一般人の君に護衛なんて荷が重い役柄を任せるのは本意ではないんだ。」

言葉の節々に棘がある気がするのは恐らく気のせいではない。
だが彼の言う通り確かに自分には護衛と言う役柄は少々身が重過ぎる。
サーヴァント同士の闘いが主とは言えど、人間同士でいざそのような場面に陥った時は、赤子の手を捻る如くあっけなく潰されてしまうに違いない。

「ならば、余計な戦闘に陥らぬよう護衛以外の役柄を用意し、俺はそれを演じれば、」
「いいや。護衛のままで良い。」

彼の不満に同意して陽介がそう持ちかける。
しかし、自分から危惧し始めて話を持ちかけたはずの切嗣は、意外にも彼の言葉を速攻で却下した。

「下手な役柄を演じようと余計な負担をかけさせ、逆に面倒な事になっても困る。僕も、アイリもだ。
それに、君はあまり動く必要はない。君程度の力がなくともアイリは一人でやっていけると信用しているからな。」

前者の話で、何故そこでアイリスフィールが出てくるのだろうか。と、陽介は少しばかり考えるも、相変わらずの彼の嫌味にさらりとかわす事に専念した。

「いいか、陽介」

ぴりっとした空気が途端にその場を占拠する。
彼の暗闇のような黒い瞳が自分を厳しく射抜いた。

「くれぐれも、くれぐれも、だ。」
「はい。」

その先に続くであろう彼の忠告を予想し、聖杯戦争の邪魔にはならない。仮の護衛とは言えど確りとアイリスフィールの事を護る。そう彼に答えようと言葉を用意して待つ。
陽介は真摯に彼と向き合い、その視線を合わせた。

「…護衛以上の出過ぎた事は一切するんじゃないぞ。」

「………、…は。」

一瞬、何を言われたのか陽介にはわからなくてぽかんと呆ける。
間抜けた陽介の声は静寂の部屋に良く響き、そしてまたそれは切嗣の耳にも届いて更に彼の苛立ちを煽った。

「君のアイリに対する忠誠心は買っている。しかし、それ以上となれば話は別だ。…一応僕もその、私情を挟むつもりはないが、あまりに目に余る行為をされたら冷静ではいられずまともな判断が出来ない事も考慮されるからな。」

だが目の前の切嗣の顔は真剣そのもので、若干額に冷や汗のようなものが薄らと浮かんでいた。

「いいか、一切だ。」

一切と言う言葉に力を込めて、再度強めに自分に忠告する。
彼の言葉に呆けていた陽介はやはりぼけっとしたまま、けれどもやっと我に返ってぺこりと頭を下げた。

「…承知しました。誠心誠意、奥方に尽くし、この身を削ってでも彼女を護ることを誓います。」
「いや、尽くさなくて良い。必要以上に尽くす必要はない。それから彼女の目にヒーローのようにかっこよく映るくらいの護り方はしなくて良い。」

……この男は…。

此方が真剣に纏めようとしているのに、わざわざ一句一句に反応する彼に、内心で呆れ果てながらも陽介は冷静に言葉を質した。

「……最低限に尽くしつつ、最低限に目に付いた限り護ります。」
「目に付いた限り?」
「可能な限り、彼女から眼を離さず必ず護ります。」
「時と場合によって見るのを控えろ、陽介。」
「…。」

◆面倒な奴、と失礼ながらに思う。


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