我が家のサーヴァント達

□君が在るから僕が在る
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初めて覚えた名前は、母の名前で。
初めて書いた名前は、父の名前で。
初めて口にした言葉は、二人の名前で。
初めて植えつけられた恐怖は、衛宮切嗣のもので。
初めて覚えた愛は、アインツベルンのお姫様にだった。

「貴方の名前はなんていうの?」

そう問い掛けてくれた声が今でも頭に残っている。
鈴のように静かな声で優しく柔らかく訊ねてくれる彼女。
自分はその纏う美しい雰囲気に気圧されて、一瞬本気で言葉をなくした。
けれども慌ててすぐに答えて、それを聞いて彼女はふんふんと小さく首を傾げてから振り返る。

「そう、陽介。…良い名前ね。」

華のように可憐に笑う笑顔。
けれども何処か今にも消えてしまいそうに儚くて。
言うなればまるで雪解けのよう。

その瞬間に、多分自分の総ては既に彼女に奪われていた。

例え、空の人形であるそのお姫様に、中身を吹き込んだのが自分に恐怖を植え付けた男だとしても。

白銀の彼女に寄り添うべきは灰色の自分ではなく、漆黒の闇だと気付くのは遅くは無かった。
何しろ悔しい位に彼らはお似合いで、なによりも彼女の中の彼が大きすぎて眩しすぎて、入り込むには絶望的だとすぐに理解したから。
彼が彼女を占領する幅は果てしなく広すぎるのだ。
まるで彼女の総てが彼のものと言っても過言ではないほどで、届かな過ぎて泣きたくなる程。
けれども、それを自覚する度に此方の気持ちがわかったように彼女がくれる愛情は温かすぎて、悲しい以上に嬉しくて、そのままでも良くなった。

例え闇が憎くても。
例えどれほど憎んでも、それは彼女を憎む事に変わりはないと気づいたから。

高嶺の花と呼ぶにはまだ足りなく、空と呼ぶには近すぎる。
どちらにしろ、凡人が手を伸ばした所で少しも届きはしないのを分かっている。
けれどそんな彼女を自分は愛した。

例え既に誰かのものだとしても。
例え彼女が自分を見てくれずとも。
自分に中身を植え付けてくれたのは確かにその空の人形のお姫様だったのだから。
その喜びと感謝と、そして愛情は計り知れないもの。

だからこそ、愛しているのならば暗い感情に埋め尽くされるよりも、
いっその事、その人の愛するものすらも愛したいといつしか考え始めた。

彼女が笑う。
それだけで、生きていてよかったなんて幸せになれるのだから。
大袈裟だけど。でも、大袈裟じゃないほどに愛しくて。

「アイリスフィール。」

一言、自分が彼女の名を奏でるだけで、彼女は笑ってくれる。
自分に出来るのはただそれだけで。
でもそれだけの事で自分が彼女に少しでも影響を与えられるならば自分はそれで構わないと納得させた。

愛してる。

とは、一生言えないのが、少し寂しいが。

◆胸の痛みは、喜びだと勘違いしよう。

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