我が家のサーヴァント達

□暮れの馬鹿騒ぎ
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昨夜は飲みすぎたせいで頭が痛いな、とごんごんと酒に苛まれた頭を叩きながら起き上がれば、隣にある人の気配と、そして不自然なふくらみに気付いて、陽介は一瞬で覚醒した。

まさか、と思いながら半信半疑で毛布を剥ぎ取れば、そこには上半身裸の女性、ではなく真逆の性別。自分と同じ性別。所謂男性、及び何故か衛宮切嗣がそこにぐっすりと寝転んでいた。

女のような絹を裂いたような悲鳴を上げれば何故か自分の部屋に言峰綺礼が乗り込んでくるし。
逃げるように起き上がれば、居間では何故か具合の悪そうな雁夜を介抱しているウェイバーと、妙に苛々とした様子のケイネス、自由奔放な龍之介がテレビを見ているし、キッチンからはエプロン姿の遠坂時臣が嬉々とした穏やかな笑顔でやってきた。

「やあ、陽介。君はいつもこの時間に起きているのかい。早いね。」
「ちょっと待ってくれ。何でお前らがうちに居る。
っていうか一旦水をくれ。起き掛け一発とんでもなく嫌なもんを見た。」

取り合えず自身を落ち着かせる為に、色々突っ込みたいことを放置して時臣に水を要求する。
すると時臣は嫌な顔一つせず、素直にコップに水を注いでくると甲斐甲斐しく彼に差し出した。

「なんでって…不思議な事を言うもんだね。」

困ったような笑顔で笑う時臣に、陽介は水を貰いながらもきょとんとする。

「ふしぎ、って…なにが。」

手渡されたコップを通してちょんと触れ合った指先に、なんとなく嫌な悪寒を感じるも、とりあえずからからになった喉を潤す為に先に水を飲む。
ごくりと、舌先に感じた冷たい刺激に支配され、次に喉を通る水の滑らかさを心地よく感じた。

「だって私達全員を連れ込んだのは君じゃないか。」

その瞬間、物凄い勢いで水を吐き出した。





「待て。ほんっとーに待ってくれ。
一夜の過ちっておかしいだろ、それ。
女性だったらまだしもさ、全方位に男性地帯ってそれおかしいだろ。どんな酷い地雷だよ。」

全員揃っていったん席に着いた陽介達は、まず記憶のない前日の事を各々から聞いて話を纏める。
要するに詳しい話を聞いたところ、我が家に全員を無理矢理連れ込んでさまざまな事を仕出かしたのはどうやら自分らしいとの事だ。

「つか一人くらい女性居るもんだろ普通。」
「アイリやイリヤに手は出させんぞ。」
「ソラウに指一本でも触れたら許さん。」
「こんだけの男に手を出しといて女とか贅沢すぎっしょ、陽介ー。」

「しかも抱いた方は俺かよ。」

逆でも決して嬉しくはない状況であったが、この状況も相当に辛い。
せめて自分が逆の立場であれば被害者という事で逃げようもあったが。

「強引にやっといてよく言うよー。ま、俺は案外楽しめたけど、」
「お前…そっち方向だったのか、さては?」

陽介が頭を抱えて深い溜息をついていれば、ぽんと肩を叩いた龍之介が朗らかに笑いかけてくる。
普段であれば無邪気と思う、少々性質の悪い笑顔。
けれども今はその笑みが非常に悪質なものに見えてならなかった。
陽介は龍之介から軽く体を引かせてじとっと見つめる。
すると、龍之介は陽介の背中をばしばしと叩いた。

「なーに言ってんだか。目覚めさせたのは陽介の方だろ。
俺にあんな事やこんな事にしちゃっといて目覚めるなって方が無理だっての。」

にたにたと意地悪そうな笑顔を浮かべた龍之介がまるで女の子のように自分の肩にこてんと頭をつけて身を寄せる。
すると、それを見たウェイバーが反対方向の陽介の腕を控えめに引っ張り、表情を険しくする。

「な、なな、なにべたべたしてんだよッ、まだ話は終わってないだろ!」
「いや、寧ろ皆忘れてなかったことにして欲しい。」

ぐいぐいと腕を引っ張るウェイバーに対して、陽介は非常に嫌そうな顔で深く、深く溜息を吐いた。
これが女子であるならばどれだけ嬉しいか。
だが、それをじとっと無感情に見ていた切嗣と綺礼がすかさず口を挟む。

「それは無理だろう。」
「それは無理だな。」

何故かこういう時ばかり、意見を一致させてにべもなく言い放つ二人。
普段でもそう言う風に仲良くすれば良いのに、と陽介は内心で思いながら、色のない瞳の二人から視線を逃避する。

「大体、此処まで手を出しつくしておいてそんな都合のいい結果で済ませられると思っているのか。」

珈琲を飲みながらご尤もなことを口にする切嗣に、陽介はぐっと黙り込んだ。
それを言われてしまえば流石に罪悪感がちくちくと胸を刺す。
すると、切嗣がふうと安堵に近い息を吐いた。

「まあ、僕は君を気に入っていたからあまりダメージがないからよかったものの…他の連中にとってはトラウマものだろ。」
「良くない。俺にとってはぜんぜん良くない。」

呆れながらも堂々としている切嗣にとことんなまでに頭が痛くなりかけながら、陽介はくらっと眩む頭を抑える。
すると、その言葉に反論するようにして時臣がすかさず軽く手を振った。

「いやいや。私とて特に大した衝撃はないさ。」
「いや、あんたは取り乱れろ。妻子もちだろうが。」

幾ら優雅にしたってそれは、と言いかけて陽介は再度頭痛を覚えた。
眉間に皺を寄せて自身の額を押さえ込んで痛みを抑える。
すると、雁夜がひょこっと後ろから顔を出して、彼を宥めた。

「だ、大丈夫か?」
「あ?あ。ああ……いや俺としてはあんたの方が大丈夫か心配だ。っていうか俺はあんたにまで声をかけたのか。」

よりにもよってこのような体の弱い人にも手を出すなんて、と。男に手を出したこと自体を信用したくはなかったが、けれども非道すぎる自分に別の意味で頭が痛くなる。
すると、雁夜は目を合わせると、やや頬を赤く染めて視線を逸らした。

「いや、声をかけたというよりは僕は君に攫われた具合だったな。
ゴミ捨て場で気を失ってたところを君が拾い上げてきたって……で、でもまさか、拾ってくれたのが善意じゃなかったのは驚きだったが」
「善意です!100%多分、善意!」

というよりもどの時点で自分は酔っていたんだろうかと眉間に皺を寄せて、深く考え込んでみる。
しかし幾ら考え込んだところで自分は切嗣に誘われて飲んだ一杯しか思い出せない。
そもそも、自身は酒に弱いと自他共に認めているはずだから相手も自分に無理に飲ませようとしないし、勿論の事ながら自分は自制して必要以上に飲む事はないというのに。

「お、おい。お前まさか本当に何も覚えてないとか言うつもりじゃないだろうな…冗談じゃなくてっ、」
「え。」

ふむと顎に手を当てていれば、妙に焦った様子でウェイバーが必死に声をかけてきた。
陽介はぽかんとして彼に眼を向けると、曖昧に唸って苦笑いを零す。
そもそも本当に見覚えないし、とは言わずに。

「…せ、責任…取れよな。お前のおかげで僕は…」

頬を染めてもじもじとするウェイバーは、何処かいじらしく愛らしさが見える。

「分からない責任は取れません、取りたくないです。」

ぴしゃりと彼を冷たく突き放し、陽介は正常ではなくなりかけた頭を軽く小突く。
女性ならまだしも目の前の人物はれっきとした男だ。
どれだけ可愛らしい仕種を持っていても、彼の性別は自分と同じ男性であるのだ。
すると、前方の切嗣の隣からふんと荒い鼻息が聞こえた。

「やはり君は所詮は無責任な男だったということか。
この状況において解決策のひとつも見出さず、少しも前向きになろうともせずとは…
こんな事ソラウが、……いや、ソラウに聴かれれば私は確実に破滅だ。」

しかしそう言いながらも表情に一切悲壮感が漂ってないのは気のせいか。
あのケイネスであるならばもっと落ち込んだり、あるいは発狂するなりもっと激しい反応をすると思ったのだが。

「…あんた、随分と冷静だな。」
「な、なにがだね。私はこれでも先程までずっと取り乱していた方だったんだぞ。」
「……それにしたって、あんたはメンタル弱いから男と関係持ったなんて事あったら一日位は塞ぎ込んでても不思議じゃないんだけど…」
「し、失敬だな!君は!!わ、私がそのような弱い男な訳がないだろう!」

そう陽介がじっとケイネスを疑わしげに見つめていれば、焦るケイネスの傍ら、時臣が話に割り込んだ。

「もし責任が取れないというのならば、こちら側から勝手に精神的慰謝料を君に要求させていただこうか。」
「なんでそうなるんだよ。」
「私達とて君に色々とされた方であるのに、しらを切られるのは如何せん納得がいかないんだ。
それに遠坂家は宝石魔術が中心だから、」
「常に金を求めてるからってそこで俺にせびるなよ。いや、悪いのは俺ですけども。」

第一男同士の場合でもこういう時法律で慰謝料と言うものは役立つんだろうか?
その前に彼が求める慰謝料と言うのは莫大になる気がして酷く恐ろしい。

「まあ、素直に君が私達と起こした過ちを認めて遠坂に婿に来れば考えなくも無いが…」
「待て、なんで婿だ。何で婿になるんだ俺が。」
「責任を取るのはそういう事じゃないか。私の嫁は葵が居るから君には譲れないが、君が私の旦那になればいい話だろう。
私は君であるならば構わないよ。凛や桜は新しいお父さんが出来たと喜ぶだろう。」
「喜ぶか、泣くわ。」

綺礼の隣に居た時臣が陽介の手をぎゅっと両手で包み込んだ。
にっこりと笑う時臣に胡散臭さを感じて陽介は引き気味に強引に手を払った。

「お待ちください導師。それは少々早計過ぎかと…」

すると、時臣と陽介の間に入ってきたのは彼の弟子である綺礼だった。
陽介はほっとして、比較的まだまともそうである綺礼に救いを求めた。

「順番的には先に私が彼と関係を持ったのですから、まずは先に私が彼の所有権を得る権利があります。」
「そう言う助け方いらないですから。つか知りたくもない情報わざわざ語ってくれてありがとうよ神父っ!
つーか俺は本当に何を思ってお前なんかを誘ったんだ!!」

ぐっと手を押さえ込んで真顔で此方に詰め寄る神父に両耳を押さえて激しく混乱した。
強引にも程がある。
強引過ぎるにも程がある。

「待て、言峰綺礼。順番的には僕が最後だが、彼に目をつけたのは僕が先だ。
貴様に渡すことはならんぞ。」

間に割り込んだ切嗣が即座に綺礼の肩を掴んでねめつける。
すると振り返った綺礼が彼に対して火花を散らした。

「っていうか俺は既婚者三人に手を出したのか…。」

何が悲しくて男二人に取り合いされなくてはならないのか。
いや、二人どころじゃない。
この場に居る全員と自分が?なんて考えるだけでやっぱり意識を失いそうだ。
と言うか何故このような年の瀬にこんな訳のわからない目にあわないといけないのか。

「…夢ならマジで覚めてくれ。」

◆こんな悪夢はいりません
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