我が家のサーヴァント達

□羨望の彼
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「言峰って、背高いよな。」

漆黒のカソックを身に纏う、人形のような鉄面皮の男に向けて陽介は感心した。
背後から聞こえた男の声に、前方を歩いていた綺礼は、大して驚いた素振りもなく肩越しに陽介に振り返る。

「それがどうした?」

一旦背後の彼を目にすると、綺礼は思わず立ち止まる。
ふむふむと、顎に手を当てて改めて綺礼を上から下まで嘗め回すようにじっくりと視認する陽介。
その目付きの鋭さに綺礼は不気味なものを感じはするものの、嫌悪感は抱かずに目をぱちくりとさせた。
すると気付いた陽介がはっとして綺礼から一旦遠退いてぶんぶんと首を左右に振る。

「や、や、や、違うから。別に変な意味とかじゃないからな。それは勘違いしないでくれ。
俺の好みはミニパトの姉ちゃんだから。」

立ち止まった綺礼の不審そうな目付きを受け取ったのか、陽介は顔をひく付かせて否定する。
その否定の意味に綺礼は更に不審に思って、

「いや。なんとなくさ…前からお前が結構背がでかいの知ってたつもりだったんだけど、なんとなくこうして改めて目の当たりにしたら、凄いなあ。と。」

ばしばし、とその背中を強めに陽介が叩くも、綺礼の屈強な身体はびくともせず、綺礼自身も少しも痛みを感じた顔は見せなかった。

「別にそこまで言われるほどのものでもない。」
「言われるほどのものだろうが。お前、自分のでかさわかってないのか?」

特に俺が見てきた中で言峰が一番でかい。と陽介は改めて綺礼を見て、その頭部に手を伸ばした。

「ほれ見ろ。この膨大な落差を。
俺とお前のこの男として在り得ない身長差を。」

ほらほら、と綺礼の頭の上で手をひらひらとさせる陽介は、爪先立ちで何故か勝ち誇った顔をする。
綺礼は自分の頭の上にある陽介の手と、ぐらぐらと揺れる不安定な陽介の頭を交互に眺めて、なるほど頭一つ分違いがあるのか。と把握した。

「あ、わかった。お前結構足が長いんだ。」
「……なに?」

ぱっと綺礼の頭の上から手を外して、陽介は一旦足をきちんと地面に着地させる。
そして今度は綺礼の足元に目を向けた。

「だって座ってる時は俺と同じように見えるしなあ……だとしたら、如何考えても違いは足だとしか思えなくないか?」

思えなくないか、と言われても。と綺礼はやはり彼が底まで身長に躍起になるのかわからずに無言で居た。
それでも陽介はやはり、一人でアレだこれだと考えて眉間に皺を寄せている。

「その仮定で話を進めるとすれば、つまり君は短足と言うことになるが?」
「う。」

ぽつりと綺礼が思ったことを口走れば、真剣に考えていた陽介の顔が曇った。

「思っても言うなよ、そう言うのは。」

はあ、とやや凹む陽介に、綺礼は一度瞼をぱちくりさせてから「すまん」と一言無感情に謝った。
だが陽介は少しも腹立たしく捻くれることはなく、やはりへらっと笑った。

「俺も八極拳とかやったら背伸びるかな?」

いや、別に八極拳はそう言うものでは。
そう言おうとする前に何かに気付いたらしい陽介が一歩言峰に詰め寄った。

「もしかして言峰、手もでかいのか?」
「……さあ。」
「見してよ。」

断る理由もなく言峰が腕を上げれば、空かさず陽介がぴったりと彼に手を合わせる。
じいっと目を凝らして陽介は、言峰の無骨な掌と自分の男にしては薄っぺらい掌の差異にまず感服した。

「うわ、でかいでかい。負けた俺。」

けらけらと笑う陽介。
そんな彼に対して何が楽しいか全く分からない、と綺礼。

「何故君はそこまで私に勝とうとする?」

先程から何かと自分と比較して見せるところからして、彼は自分に対抗心を抱いているのではないだろうかと綺礼は陽介に投げ掛ける。
しかし陽介はびっくりとして、やはりへらっとネジが抜けた表情で口角を上げた。

「いやー、勝とうとはしてないなあ。
そもそも俺とお前じゃ土台が色々違うだろ?
お前は何でも出来る聖職者。俺は人並のなんでもないただの凡人だ。
比べようも、張り合いようもないじゃないか。」

ますます綺礼は訳が分からなくなった。
彼位の年であれば幾らでも友人等と作れそうなものなのに。
それなのに自分に執着を見せる陽介が綺礼にとっては不可思議な存在以外の何者でもなかった。

「ならば何故そこまで私等に?」

素直に綺礼がその疑問をぶつけて、じっと目を凝らして彼を眺める。
合わせている掌を眺めていた陽介は、その質問を受けて顔を上げた。

「何故って、…そこまで理由が必要か?」

ぽかんと丸い瞳を更に丸くさせて、陽介こそが心底不思議そうに綺礼を見つめる。
その視線に綺礼は少々押し負けて、いや…そう言うわけでは…等と彼らしくない自信のない態度を取ってしまった。
すると陽介は軽く頭をかいて一歩彼から遠退く。

「友達になりたい。だからお前に近づいてる。若いて述べる理由はそれかな。」
「…は?」

彼の言葉が信じられずに怪訝そうに綺礼が目を見開けば、陽介は目を合わせると無邪気に、にこりと笑みを浮かべる。
それこそまさに無条件で親を信用する幼子のように。

◆興味津々

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