夢幻時間

□僕らのハッピーエンドの形
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「とくと見よ陽介!このさやかちゃんの素敵な勇姿を!!」
「おお、いきなりなんだ。どうしたさやかちゃん。」

躊躇う事なく突如、陽介の目の前で変身してマントをバッと翻したさやかに、陽介はぽかんと驚いた。
どうよ、と得意げになる彼女は腰に手を当てて仁王立ちをする。

「へっへっへー。ほらまだ私陽介にはこの姿見せてなかったじゃん?
だからこのさやかちゃんの勇姿を是非とも君に見せてあげようと思ったのだよ、陽介クン。」

ソウルジェムの濁りなんて微塵も頭に浮かぶ事は無く、ただ単に彼に良い所を見せようと思って、こんな事をしだしたさやか。
もしも白い獣ごときが此処に居れば、「男に見せるためだけに変身するなんて、わけがわからないよ」とでも言われそうな行動。
けれども決してさやかはそれを厭う事は無く、陽介とてそれを咎めることなど一切無かった。

「ほうそうかい。つーかスカート短いな。見えないのかそ、」
「天・誅!」

僅かに首を傾げて自身のスカートへと視線を移す陽介に、さやかはすかさず怒りと防御の意味込めて握った拳を彼の脳天へと落下させた。
ごすんと一溜まりもない鈍い音が響き渡れば、陽介はごろごろとその場に転がって痛みを堪えている。
ふんっと両腕を組んで憤慨するさやかは、冷ややかな目で陽介を見下す。

「ったくもう、男の子って本当どうしてこうなのかなー。直ぐに女の子のスカートの方を見るのやめなさいよねッ。最低、最低ッ!」
「女の子も暴力的なのはどうかと思うんだがな俺は…。
最近じゃ照れ隠しとか色んな意味で暴力的な女子って増えてるけど、俺はアレは納得いかんよ。
やっぱ女の子は聖女じゃなくっちゃ。」
「何の話をしてんのよ?悪かったわね聖女じゃなくて。」

どうせ私はゾンビですよ。と唇を尖らせて拗ねてみる。
だが、その言葉には過去のような深刻さが一切見えない。
何言ってんだよ。とやっと立ち上がった陽介がその額を軽く小突く。

「さやかは俺の女神だろ?」

恥ずかしげも無くさらっと歯の浮くような台詞を吐き捨てる彼に、さやかは口をぽかんと開いて、それだけでは留まらず林檎のように顔をぼんっと赤らめた。

「…いーっだ!そんな言葉貰っても、全然嬉しくないんですからねっ。さやかちゃんそんな安い女の子じゃないしー。」

嬉しさと恥ずかしさを隠して、つんと素っ気無く彼から顔を逸らして、背中を向ける。

自分は本来は幼馴染である上条恭介の事を愛していた。心から。
けれども気付けば、いつからか自分の中での一番の愛する存在は、自分をただ待っていて傍に居てくれる彼の姿に摩り替わってしまっていた。
いつしかその彼に本気で心が移り、そして尚、自分の方が彼に依存してしまっていた。

陽介は軽く面倒な奴。と笑み混じりに呟くも、その背中にはっきりと投げ掛けた。

「じゃあさやかは俺の嫁。」
「……もう一声っ。」
「さやか、俺の嫁になれ!!」

頬を朱色に染めたまま、さやかは満面の笑みで振り返り、勢いのまま彼へと思い切り飛びついた。
彼はぎょっとしてよろけたものの、しっかりと彼女をその両の腕で捕まえて強く抱きしめる。

「許すッ。幸せにしなさい!」

◆これぞ僕らのハッピーエンド。


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