夢幻時間

□実らぬ果実
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何気なく見ていたテレビで流れた結婚式場の宣伝。
そのアイドルが着ていた白い衣装をふと見て、ぼんやりとしていた彼女が、ふと言葉を放つ。

「ねえ、晶馬。例えば私がウェディングドレスを着るとしてよ?
その際、似合う似合わないで行ったらどっちだと思う?
私は前者に一票入れるわ。」
「自分で言うかなあ、そう言うこと。」

だって私ほどそういうものが似合わない女は居ないわよ。
それが彼女の口癖だった。
別にそう言って本当は着たい素振りを見せているわけじゃない。
ただ単に自虐しているだけとしか思えない。

けれどその自虐の仕方も単純に自分を卑下しているわけではなく、誰かに対する鬱憤をあえてそうしてぶつけているように見えた。
そう思うのはきっと自分は知っているからだ。
彼女が到底叶わぬ、叶えさせようともしない思いを心に抱えているからと。
そして、それが叶わぬと同時に自分の思いも決して成就する事はないからと。
だからこうして自分を諦めさせようとわざと自虐的に振舞う彼女に苛々した。

その程度で自分が今更目を背けるわけはないのに。

せめて彼がさっさと本命を作って早く結婚してくれればいいのに、と思っていれば、彼女がそれをそのまま口にした。

「せめて冠葉が早く結婚してくれればね。…心配事がなくなるのに。」

わざとお姉さんぶって放つその一言。
それは仮初めだというのは一瞬で理解できた。
本当はそんなの言い訳で、彼女のウェディングには永久欠番があり、そしてそれは永遠にそいつのものにならないだけの事だった。
そして彼女の隣を手に入れられるのも、彼女が僕を見てくれることもきっとない。
いつまでも彼女は永久欠番の自分の兄を見続けて、僕は永遠に手に入らない彼女とその永久欠番の席を見続ける。

片思いの上に更に片思い。そしてその上片思い。なんて不毛でややこしい関係だろうかと理解しながらもいつまで経っても女を想う事をやめない自分もどうかしている、と視線を逸らして自嘲した。

◆誰も幸せにならない結末

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