□おかんと一緒(ただしサーヴァント)
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戦をするにも腹が減る。
というか戦をしてこそ腹が減る。
人間には食事と言うのは必要不可欠で、時と場合によっては腹に入るものなら何でも良いと思って自分は兎に角なんでもかっ込む時がある。
特に自分は、食べれるならなんだって構わない人間だ。
けれども最近では、手ごろで早く食べれる食事を口にする機会はほぼなくなってしまった。

何故ならば、それは聖杯戦争により呼び出したサーヴァントのおかげである。
決して食事を取るなと言う厳しい従者なのか?…否。寧ろ逆だ。
彼は可笑しな位に、食事に煩いサーヴァントであるのだ。

それは以前自分が何気なくカップラーメンを食べようとした時の事。
自分が家に貯蔵してある適当なそれを手にして、やかんを火にかけたその時だ。

「待てマスター。君は一体何をしている。」

霊体化していたはずの我がサーヴァントが、突然実体化し、コンロに火をつけようとする自分の手をパッと抑えて止めた。
自分は突然実体化した彼に驚きつつも、なにってご飯を食べようと。と素直に答える。
だが彼は険しい顔で、カップラーメンを睨み、自分のほうへと振り返った。

「ご飯?それが?…君はその様なインスタント食品をご飯と呼ぶのかね?」

いやだって、食事を作るのよりか時間短縮になるし、早く食べれるし。
厳しい目で自分を射抜く彼に、たどたどしくなってしまいながら言えば、彼はふむと顎に手を当てて渋い顔をした。

「……お言葉だが、マスター。

確かに最近では手頃に出来る料理を好む人間は世代と共に増えている。忙しいという言い訳も分かる。しかし時間がないのとものぐさでは大きく意味が異なるぞ。

いいか、料理一つで自身の体の死活問題になるんだぞ。今は確かに若いからいいさ。
だがしかし、後に掛かる負担がどれほど大きくどれほど辛いか君は知らないだろう。塩分糖分過多、バランスの悪い食生活。それが及ぼす害に一体何人が苦しめられているか…
そうならないためにも、まずは我がマスターにも食事から正していかねばならん。」

凄いやこの人。いや、英霊。いやさ、自分のサーヴァント。
愚痴を吐き捨てながらも、てきぱきと料理を作る手は抜かずに一心不乱に動かしている。
正直言うとその後姿は、我侭を言う子供に嗜めるお母さんのようにも見えたのだが、まあそれはちょっと黙っておこう。

まるで親の敵のようにカップラーメンを嫌う彼に最初は若干引いたものの、実際その彼の出す料理を食べたら文句を言う口もなくなってしまった。

…美味しい。

ぽつりと自分が感想を述べれば、彼は満足気に笑みを浮かべる。

「キッチン・冷蔵庫・棚を見渡したところ、君は雑な食事を好むと見た。しかしそれではいつ身体を壊すか分かったものではないぞマスター。
いいか、食事だけはきちんと三食まともなものを口にしろ。
君がそこまでものぐさで忙しいというのならば、遠慮なく私が作ってやる。なに、サーヴァントなのだからな。そのくらいマスターにしてやらねばいかんだろう。
だから君も厭う事無くきちんと三食、食べることにしてくれ。
もしも一食抜いた時は例え戦闘最中といえども無理矢理君に食べさせることを覚悟したまえ。」

途端に、切れ間無く饒舌に話し始めるサーヴァントにひと時の幸せな気分は失せて、びしりと音を立て固まった。
待て待て待て。何をこの男は熱く語っているんだ。
無理矢理ってあんた。戦闘中の危ない真っ只中にたかだか食事一つを楽しむ時間なんてあってたまるか。っていうかそんな事やっている間に確実に殺されるのがオチではないのか。

此方の言葉を挿むよりもなく長々と語る彼に、一瞬絶句して自分は慌てて突っ込んだ。

「身体の資本は食事からだ。辛い戦闘でも身体が付いてこなければ話にならん。その為きちんと食事をだな、」

いやそれはわかる。わかるがしかしだ。
とりあえず話を聞いてくれと真顔のサーヴァントに此方が必死で彼に耳を貸すように求めて、此方の言い分をぶつける。

食事の事については後回しでもいいだろう。
今はとにかく聖杯戦争の事だろう。
食事に足を取られてバッドエンドなんて事になったら洒落にならないしありえない。
そんなに畏まらなくたっていざとなったらハンバーガーとかカップラーメンとかでも…、

それを告げた瞬間、彼の目の色が変わった。
厳しい顔つきになった弓兵を見て、ぎくりと固まる自分。

「すまないが、最後の一言だけはどうにも聞き捨てならんな…。
確かに忙しい時は止むを得ないという君の判断は分かる。しかしそれは所謂妥協だ。
忙しくてもそんなインスタントに頼らずとも、一寸した工夫で、しかも三分で人の手で出来る料理などごまんとある。
故に、君の最後の決断にだけは頷くことは私は出来ない。
いいか、マスター。
私の目が黒いうちはそんなインスタントなんぞ食えると思うな。」

びしりと此方に指を差してくるサーヴァントの瞳に、自分が呆然と固まった。

…なんだか相当厄介なサーヴァントみたいだ、こいつ。

そう悟った自分はそれから約三週間、彼の宣言どおり確かにインスタント類は断じて口にする事が出来なくなっていた。

◆その分美味しい料理が出るからいいけどさ

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