□熱に魘され喰らわれる
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「超寒い。後熱い。」
「どっちが一体本当?」
「両方マジです。」

ずずっと鼻を啜りながら、ぼんやりと何処かを眺める焦点の合わない瞳に龍之介は苦笑する。
白野の真っ赤に火照る顔にぴたっと何気なく手を当ててやれば、白野は少しばかり安らいだ様な表情をした。

「あー……龍之介、手冷たい。いい、なんかいいわ。」

何処か舌足らずな口調で瞼を伏せる白野。
龍之介の掌に静かに擦り寄りながら、ふうと熱を持った息を吐く。

「つーか、こんな寒い中薄着で外を歩いてるからそうなるんだよ、白野。
だから俺あんだけ上着着ろって言ったじゃん。」
「うるさいなあ、龍之介は。具合悪い時に説教はやめてってば。」
「(説教って言うか普通のこと言ってるだけなんだけど)」

定番の風邪のひき方をした白野に、内心では呆れながら龍之介が注意を促すと、白野はむっと頬を膨らます。
掌をひらひらとさせて面倒そうにそっぽを向く白野を見て、龍之介は静かに手を引く。
すると、はっとした白野が慌てて龍之介の袖口を引っ張った。

「手はそのままでおねがいします。」
「…だってこっちの手もう熱いよ?」
「じゃあ片方をおねがいします。」

必死そうに此方を覗き込んで来る白野に、龍之介は仕方なさそうに白野へもう片方の手を素直に当てた。
今度はぴたっと額に押し当ててやれば、沸騰しそうなほどに熱を持っている白野に気付いて少し顔を歪める。
だが、白野にとっては心地が良いのか朗らかになってはふうと息を吐いた。

「…龍之介どっかいくー?」
「うーん、後で子供達と戯れてくる予定だけど、今は行かない。」
「じゃあずっと居て。」
「……。あのさ、自分が何言ってんのか分かってやってる?」

流石に熱があるとはいえど、此処まで素直になった白野を見るのは珍しい為龍之介は少し不気味に感じてしまう。
とは言えど、内心ではそんな彼女に意識してしまう自分もあり、どういう反応を取れば良いのか戸惑った。

一旦ぱっと手を離した龍之介は、温まった掌ではなく、まだ冷たい手の甲を白野の鎖骨の下に押し当ててみる。
白野は普段のように叫んだり、喚いたりする訳でもなく、一度ぴゃっ!と小さく飛び上がっただけで後は大人しくぼんやりとしていた。

「……きもちー…。」
「…、……マジでわかってねーか…。」

汗ばんで赤く染まる頬に、断続的な荒い吐息。
とろんとする濁った瞳とからからに乾いた薄朱色の唇。
半開きになった唇の中から時折見える舌先。
いつも以上に無防備なその姿を眺めて、龍之介はごくりと生唾を飲む。

「…ねえ、白野知ってる?」
「なにを。」

一旦肌に触れている手を引いて、再度熱を持った白野の胸元の素肌に手を這わせる龍之介。
少々くすぐったさを感じたのか、白野は少し身震いをさせたがやはりそれ以上の反応はせず、虚ろな瞳で龍之介を映した。
龍之介はにこりと笑って、彼女に顔を近づける。

「風邪の時って、いっぱい運動して汗かくと治りが早くなるんだって言う奴。
…本当かどうか、試してみない?」

◆密やかな劣情

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