□乙女としての由々しき事態
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 結婚前にウェディングドレスを着ると婚期が遅くなるらしい。

恐らくはそれはひな祭りの人形を出しっぱなしにしておくと婚期が遅れるとかいった類のものと同じ位の迷信だ。
だがしかし、嫁入り前の、更に男性の影が一切無い女性については迷信であっても結構深刻なもの。
先程セイバーが持って来たアイリスフィールの届け物の中の一つだったそれを試着した事を思い出し、妙に気が晴れない気分になった。

膝を抱えて自分が真剣にその事を悩んでいれば、真横に居たランサーが苦笑しながら自分を宥めてくれる。

「ですが、主。貴方はまだうら若き女性だ。
そのような事を気にせずとも、貴女に相応しい異性なんてその内、すぐに出てきます。」

 そのうちじゃ嫌だ。今じゃなきゃ嫌だ。

だって考えてみてくれランサー。
自分はそのうら若き乙女だと言うのに、生まれてこの方一人も男なんていやしない、居た事実すらない。
しかも乙女に必須の恋愛などすらしたことすらも一度も無い。
魔術師たるものがそのような事を考えることは非常に浮ついた愚かな考えであるとはわかっているが、何せ自分の生涯はほぼ魔術にかけてきたといっても過言ではないのだから、他に目を向ける余裕など一切無かったのだ。
そんな自分がこのまま生長して行ったら確実に異性との接触があっても気付かずに流し、モテ期も婚期も逃して負け犬の仲間入りすることは想像に難くはない。

自分がそれを長々と彼に語れば、流石の彼も苦笑して、生半可な慰めでは駄目だと理解したのか表情を暗くさせて黙り込んだ。

「あ、主よ…流石にそれは考えすぎでは。」

面倒臭い女だと思うだろう?
魔術師であるくせに婚期の事なんて考えるなんてまず女々しいと思うだろう?
でも本当に申し訳ないが、自分とて一人の女なのだ。
こんな私欲に塗れた事も愚痴として口にすることを許してもらいたい。
なによりもこんな恥ずかしく下らない嘆きを言えるのは信頼している彼のみだからこその事なのだ。

膝に肘をつけて前で手を組みふうと一つ溜息を零す。
自分の長々とした愚痴を聞き終えて暮れたランサーは、苦笑していたり、けれども時折黙り込んで笑みを引きつらせたりしていた。

 いっその事ランサーが名実共に私の男だったら良かったのにな。

そう言葉にすれば、一瞬ランサーの顔色が変わり、その後直ぐにごほんと咳払いをする。

「……冗談であっても、俺には光栄すぎる程の身に余るお言葉です。
…本音でありましたら、……多分、即答で貴女の話を承っていたことでしょう。」

勿論これは冗談だ。
彼はサーヴァントであるのだし、そのような事を考えた所で意味がないと知っている。
けれども思った以上に彼が恥らうような感情的な笑みを浮かべるものだから、つい「冗談じゃないかも」等と言ってしまいそうになりかけて慌てて視線を逸らした。

◆冗談なのに、なあ。

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