□こどものけんか
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「最早、これは日常茶飯事になってきてるな…。」
「というかこの雑種、最近じゃわざとやっていないか?」

眠りこける主の傍ら、彼女の従者達がまたもや、否。もう何度かになるちょこんと丸っこく小さな姿で互いに白野をちらちらと見ていた。

半ば諦め半分のランサーの隣で、英雄王は足をじたばたとさせながら憤慨して、渋い顔をする。

「まあ、俺は兎も角として貴様はその姿で居た方が主の為にも、俺の精神的な意味の為にも良い事だと思うが…」

英雄王を一瞥した後に、ランサーはさらっとその様な嫌味をぼそりと吐き捨てた。
そんな彼にすぐさま反応を見せた英雄王は、ぎろっとランサーを射抜き、彼の耳元でがなる。

「それはどういう意味だ雑種ッ。
普段の我では役不足だというのか、あぁ?」
「さ、騒ぐな!主が起きるだろうっ。」

くわっとランサーに食って掛かる英雄王を宥めながら、ランサーは慌てて隣に居る彼女が目を覚まさないかと言うことを危惧した。
けれども幸いにも白野の眠りは深いらしく、すんすんと寝入ったまま目を覚ます様子はない。

それを確認するとランサーはほっと胸を撫で下ろし、叫んだはずの英雄王もぴたりと声を止めて小さく息を吐いた。

「ふん…我をこんな姿にしておいて、よくもまあ優雅に寝れるものだ…時臣かっ。」
「そう言うな。主とて最近は疲れ気味なんだ。
このように静かな休暇を取らせてやるのも従者の役目だろう。」

声を抑えたランサーが押し殺すように話す英雄王に諭せば、英雄王は暫し無言を貫いた後、ふんと鼻を鳴らして立ち上がった。

「なにが従者の役目だ。
我にとっては気にしたことではない。そんな主従ごっこは貴様のみがやっていればいい。
あくまでも、我はこいつの所有物ではなく、こいつが我の所有物なのだ。
ゆえにこいつを好きにして良いのは我の方だ。」

そう言いながらとてとてと短い足で英雄王はソファにかけてあった適当なシーツを持ってくると、ばさっと彼女にかけて、その真横に自分も転がる。
満足したように彼女の顔の間近に寝転べば、英雄王はこくりと頷いた。

「よし。」
「よし、じゃないだろう、よしじゃ。」

何を満足気にしているんだと、即座にランサーが彼の首根っこを掴む。
むすっと頬を膨らませた英雄王は、ランサーに振り返ると今度は何だと言いたげに無言でねめつけた。
すると、白野の腕にがっしりと両手でしがみ付き、全身で断固として離れる意思を見せないままでいた。
そんな彼に痺れを切らして、ランサーはもやもやとする気持ちのまま、一旦ぱっと手を離す。
そして此方も無言で、英雄王の居る場所の反対側、白野の左隣の腕へと移動してシーツに潜った。

「貴様っ、我が持ってきたシーツだぞッ。
断りなく共に寝るとは何事か!」
「黙れ。先に幼稚で勝手な事を仕出かしたのは貴様の方だ。
口で言っても身体で言っても聴かんなら、いっその事俺とて好きにさせて頂く。」

どうせこんな身体なんだし。と、ランサーは小さく自分にしか聞こえないように呟くと、白野の身体にぴたっと密着してやや頬を赤く染めた。
それを見た英雄王がまるで子供が玩具を取られたようにむむっと眉間に皺を寄せて、自らも白野に身体を摺り寄せる。

そんな彼らの押し問答を頭で繰り広げられていて、まさか気付かない白野でもなく、けれども口を出せずに寝たふりをして心の中で笑った。
小さくなると喧嘩まで幼くなるんだろうか。と、白野は少し考えて、けれどもいつもこの二人はこんなものだったかと思い直した。

◆一生このままでも良いかもしれないと思った

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