□無自覚バカップル、暴発しろ
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 頭が痛い。

「少し休憩しましょうか。」

近場で侍してくれていたサーヴァントが、姿を現し苦笑する。
膝を抱えていた白野は重そうに頭を上げて、げっそりとした顔で彼に頷いた。
持っていた分厚い本を閉じて、そこにこつんと額をつける。

 いっその事、こうするだけで全部の知識が頭に入ってくれれば良いのに。

魔術師と言うものなのだから、そんな異能くらいあればよかったのにね、と冗談交じりで彼女が言えば、ランサーは穏やかに微笑した。

「貴女は熱心ですね。暇が空けばいつも此方に出向いてはあらゆる書物を探っている。」

 というか、単に自分は未熟だから。

本の表紙を慈しむように撫でて、白野は目を伏せる。
はっきり言えば、彼女の魔術師としての能力は平均以下だったりする。
得意な魔術は防御面ばかりで、攻撃系は頼りない。
彼女にランサーの聖遺物を預けたアーチボルト、並びにギルガメッシュを召喚させた遠坂の両面に疑問を抱くほどに彼らと彼女は天と地ほどの差があり、平たく言えば弱いと呼べる魔術師であった。

 確りしないと、ランサーに迷惑かけるし、聖杯戦争勝ち抜けそうにない。

だから尚更彼女は人よりも数倍も万倍も気を引き締めて頑張らなければいけない立場であり、暇さえあればこのような場に赴いていた。

 それに、少しでも頑張って貴方と長く一緒に居たいから。

いつまでも自分のような未熟なマスターでは、従者としては不安に違いない。
なによりも、彼をつき従えて行くのだから彼自身が主で合ってよかったと満足できるような存在に少しでも近くありたかった。
そして今はそれだけではなく、ただ単に聖杯戦争の間、少しでも多く彼と居たい。
少しでも多くの間を彼と共用し、楽しんだり、笑いあったり、普通の人間同士で出来るようなことをしたい。そんな風に思っていた。

「俺は、貴女の事で迷惑なんて思ったことは一つもありませんよ。」

ランサーは白野の話を聞くと、さらっと吐き捨てて一歩彼女へと近づいた。

「確かに腹立たしいことやら無茶無謀を繰り返すことやら、変な所で無知な所やら、数え上げるとそれこそ貴女への不満は多々ありますが。」

その瞬間、ランサーの瞳の色が鋭く変わり、その笑みも心なしか怒気を含んだものに変わる。
おおっと。と白野は包み隠さない不満の色を纏った彼の目から逃れるように、わざと本で顔を覆う。
だがそれを見たランサーが彼女の本を容易く奪い取ると、じっと真顔で彼女に詰め寄った。

「けれど、貴女で良かったと思うことはあれども、やはり迷惑とは微塵もない。
…これだけは俺の本心です。」

真摯な思いを彼女に打ち明けて晴れ晴れとした笑みを浮かべるランサー。
そんな彼にぽかんと口を開きながら、なんとも言えないくすぐったさが胸に押し寄せて、自然と頬に熱を灯す。

 …あ、ありがとございます。

ぼそぼそと小さく呟いて、白野は本をぺこりと小さく頭を下げた。
そんな彼女を愛らしく思って、ランサーははにかんでこつんと白野の額に、額をあわせる。

「如何致しまして。」

◆これからも宜しく

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