□運命共同体
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「申し訳ないとは思っているわ貴方には。」

勝手に横から彼を奪い取ってしまって。
狂戦士との繋がりを示す赤い印をそっと撫でて、白野はぽつりと呟く。
彼女の目の前に居た人物は、壁に背中を預ける白野をじっと見つめてから、やがて静かに視線を逸らした。

「いや、寧ろ謝らねばならないのは僕の方だ。…君に、総てを負わせてしまうような真似をさせてしまって…」

本来ならばその印は、自分が受けるはずだったもの。
しかし、いまやその印の所有権は目の前の少女にあり、バーサーカーを全面的に操っているのは彼女だ。
結果として、雁夜の負担は大分減る事にはなっては居るが…バーサーカーの負担はほぼ総て彼女が請け負い、共闘を組んでいるとは言えども時々とても申し訳なくなってしまう。

「…本来なら、僕が桜ちゃんや君を救わなきゃいけなかったのに、」

雁夜自身としては、このような少女に総てを任せたような気がして未だにどうにもすんなりと納得行く事が出来なかった。
しかし彼女は雁夜が危惧する問題を少しも気にしたことはなく、そればかりか何故雁夜が悩んでいるのかよくわからずにいた。

「馬鹿ね。そんな事如何でもいいの。
私は今でも十分救われているわ。」

まるで雁夜を探すようにふらふらと手を置き場なく揺らす白野。
そんな彼女に気付いた雁夜は、すぐさまその掌を両手で掬い上げた。
壊れ物を包み込むようにして大事に彼女の手を包むと、安堵したように白野が肩の力を抜く。

「君は、辛くないのか?」

彼女が自分の責め苦をわからないと同時に、永久の時を暗闇の世界で生きる彼女の苦しみは自分には分からない。
だからこそ、その苦悶の日々を思うと、雁夜の胸はちくりと内側から針を刺すような痛みを感じた。
彼女はその表情から笑みをなくし、一瞬の内に暗い影を落とした。
濁った瞳の色からして、まるで人形になってしまったような錯覚を覚えた雁夜はぎくりとして、後悔する。
余計な事を言ってしまったかもしれない。
雁夜は奥歯を噛み締めて俯くも、彼女はそれ以上悲壮漂う反応を見せる事もなく、暫し間を置いてから幸せそうに柔らかい物腰で口を開いた。

「今の私には、…彼が居るから。」

令呪のある掌をぎゅっと握り締めて胸に当てる白野。
まるでその場に現界していない今でも、直ぐそこに彼女の欲する彼がいるような錯覚を起こさせてしまうほどに、彼女は手の令呪を他人のように愛おしがっていた。
心から自身のサーヴァントの事を信頼しているような彼女の安堵した発言に、雁夜は暫し呆気に取られる。
何せ狂気にしか飲まれておらず言葉もまともに発せないようなあのサーヴァントの一体何処にそこまで信用できるような部分があったのだろうか、と心から不信感を持った。
けれども、目の前の少女は確かにバーサーカーというサーヴァントの存在によって、救われているらしい事はこれだけの会話でも火を見るよりも明らかだった。
それはそれで、とても勿体無いような、儚いような、上手く形容の出来ない哀愁が胸に漂って雁夜は言葉を口にする事が出来なくなる。
変わりに雁夜は彼女の額に、何気なくこつんと自身の額を合わせた。

「…雁夜?」

白野はこの場に居る人物が彼一人しか居ないと気づいているのに、一瞬ぎくりとして声が上ずってしまう。
雁夜はそんな彼女の震える肩をそっと骨ばってやせ細った掌で押さえて、耳元で囁く。

「バーサーカーは人並以上の魔力を食うサーヴァントだ。
…だからせめて、この位は…」

一旦額を離すと、雁夜は軽く彼女の背中を押して、ぴったりと壁際に白野を押し付ける。
そして彼女の頬に手を当てて、長い沈黙を作った。
彼の行動と、そして発言により彼が一体何をするつもりなのか察した白野はぎゅっと両手を改めて握り締める。
最初は酷く狼狽したように目を泳がせては小刻みに身体を震わせていたが、やがて何も言わずにそっと瞼を閉じた。

◆共闘戦線

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