偶然週間

□Ex1.一目惚れ
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たまたま部活が遅くなり時計をみると体育館の大きな時計の長い針が8を指していた。
「げ、もうこんな時間だー」
ねー、最近部活終わるの遅いよねー。
なんて同じ部の子と話しながら制服に着替える。
夏に近づいてきたせいか、まだそこまで暗い訳ではなかった。
こんな部活長びいちゃ恋もできないよ〜、なんて言う声もきこえる。
本当にそうだ。
女子バド部はそこそこ強い。大会も近く、三年生ということもありコーチや私たち部員にも熱が入っている。
部活が恋人だなんて誰が言ったのかわからないけど、私は絶対そんなの嫌ー!!
恋がしたい!
といっても相手が出てくることもなく。
「ね、さーちゃん!恋、絶対しようね!」
すぐ隣にいた私のダブルスの相方さーちゃんの手をぐっと握り目を見つめる。
「や、わたしダーリン居るから。めい、頑張れ〜」
冷たく突き放されるかわいそうなわたし。
そういえばそうだった…彼女にはイケメンダーリンが居たんだったわ。
「うっ、さーちんの薄情モノ〜!頑張るから!見てな!」
はいはいと興味なさそうに返事をする相方。
なんて、こんなやりとりをしたのはつい昨日のことだ。
今日は部活が休みだ。
こんな日は滅多にない。
やった。
何事もなく授業、終礼と終わり支度をして教室を出る。
今日は早めに帰れるな〜なんてぼんやりと思いながら廊下を歩いていたとき
曲がり角から何かがものすごい勢いでぶつかってきた。
ドン。と太鼓を叩いたような音ではなく、ドォンと鈍く柔かいもの同士がぶつかった音がした。
「いっ…たぁ…」
その衝撃でわたしは後ろへ倒れ尻もちをつくことになった。
そしてぶつかってきた人物を見ようと顔を上げた。
「わりーわり!大丈夫かー?ってうわっ大川…」
「……向日。」
この赤髪身軽な少年は間違いなく向日岳人。
「めっちゃ痛かったんですけどお〜。」
ワザとらしく語尾を伸ばしてやる。
「わりってば!今度なんかおごってやっから勘弁!マジ今急いでっから!じゃ!」
そう言って尻もちをついてるわたしを置いて行った。
まあ…スゴイ勢いだったもんね、なんか急いでだみたいだから許してやろう。
立ち上がりスカートが捲れた部分を直す。
そしてラケットのグリップが汚れてきたことを思い出した。
家に直帰はやめて、寄り道することにした。

その選択は正解だった。
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