バレンタイン企画
□「保護者ですから」
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夜中に1人、キッチンでぺろりと湯煎にかけたチョコレートを舐めればあまり前のように甘い。今年は奮発してクーベルチュールというチョコレートを買ってみた。勿論、自分の為にだ。
去年はお父さんにあげたが、今年は両親共々出張中で当分帰ってこない。なのでこのボールいっぱいのチョコレートの海はあたしの物であって……ふっ、ふはははははっ、げはっ、ごほっ、ぐっ、ふふふふ。笑いが止まらない!
一度で良いから鼻血が出るまでチョコレートを堪能したいと思っていたのだ。もう、なんだかわくわくする。
とりあえずお酒が並んでいる棚からカシスリキュールを取り出し、少しだけチョコレートに入れた。なななんだか大人な香りがするぞ!
そして生クリームを足して後は固めるだけ、
「何やってんだ」
「ひえっ!?あ、な、なんだソーマか。泥棒かと思ったよー」
「泥棒が何やってるとは聞かねぇだろうが」
「た、確かに……」
「何でもいいが、持ってる包丁を下ろせ」
「あら…」
手元を見れば妖しく光る包丁。しかもソーマを刺す気満々ですみたいな状態になっていた。さっと下ろし、ハッと気付けばチョコレートが入ったボールがあたしの背に丁度隠れている。
出来ればばれたくはない。チョコレートの海を独り占め計画が台無しになってしまう。いや、もう、この状態ってか、ソーマが家にいることがすでに台無しになってしまう初めの一歩じゃなかろうか。
「それにしても、」
「え、あはっ?ソーマ、何で家にいるの?」
「ああ、お袋が夜中にお前ん家の電気がついてるから見てこいって言われた」
「そうなんだ…心配をおかけしました。あたしは大丈夫なんでどうぞお帰り下さい」
深々とお辞儀をすれば気付いた失態。ソーマの「…後ろのなんだ?」と言う発言。即座にお辞儀を止めて首を傾げ、「えへ」と誤魔化してみるけど、まあ、ねえ、ソーマだし、効果はない。そして、背中の冷や汗が気持ち悪い。
「そこ、どけ」
「むむむ無理!い、今ね、この場所に立ってないと死に至る病だからっ!」
「なんだそれ」
「一歩も1ミリも動いたら死んじゃう、即死なそりゃもう重病でありまして、お気になさらずソーマ宅へお帰り下さいまっ、」
「即死しないな?」
もう何ていうか見たことないけど悪代官っぽい表情のソーマがいた。にやりではなくにたり、にちゃりとした嫌な笑み。あああああもうダメだ終わりだ終わったデスだデス空気読んで帰れよこいつ!
そしてあたしはひょいっと持ち上げられて、ボールの前から難なく退場をさせられた。
「甘い香りはこれか」
「そんなに甘い香りする?」
「玄関入った時からしてた」
「じゃあ隠しても意味ないじゃん」
「そういう事だ」
人差し指でボールの中身を一掬い。そしてソーマはたっぷり指に付いたチョコレートを舐めとる。
「酒、入れただろ」
「…ええ、入れました」
「未成年だろ」
「少しだもん」
「まあ、これなら俺も食えるな」
「えー?ソーマ食べるの?甘いのあんまり好きじゃないでしょ?」
「これなら、食える」
ソーマは全く譲る気はない様で「食える」の一点張りだ。もう好きにしろ、ととりあえずバットに流すのを手伝わせる。後は冷蔵庫に入れ、少し時間を置けばチョコレートは固まった。それを四角に切っていってココアパウダーを塗す。出来たのは生チョコ。一つ味見で口に放り込めば甘くて美味しい。ソーマの口にも放り込んでじいっと見たけど、やっぱり帰る気配無し。
小皿に分けて、ラップで包み、ソーマに渡す。
「ソーマのお父さんとお母さんに渡して」
「……親父がまた気持ち悪くなるのか」
「えー?」
「何でもない、わかった」
「あーあーソーマのお陰で1人で全部食べる夢が叶わなかったー!」
作った生チョコをリビングのテーブルに全部置き、ソファーにダイブする。足をバタバタと動かしても何も変わらない。むくりと起き上がって、生チョコに手を伸ばし、口に入れた。
「ソーマってなんだろね、兄貴!ってわけでもないし」
「幼なじみだろ」
「いや、そうなんだけど」
「何なんだ…」
2個、3個と互いに生チョコを食べる手は休まない。大量にある生チョコもこのペースでいけば、すぐに無くなることだろう。7個目の生チョコを食べようとした時、気付いた。これってソーマにバレンタインあげたって事になるよね?
「ソーマソーマ!ホワイトデー期待、」
「そんなもんはない」
「は?なんで!チョコ食べてるじゃん!」
「俺はお前の保護者だから、ホワイトデーはない」
保護者ですから
(は?何それ?意味がわからないんですけど)(そのままだ。…だったら今までの菓子パン代請求してやろうか?)(いっぱい食べてー!)
event:GE V.D Thanks!!
title:確かに恋だった
110214
さち/響 喜乙