バレンタイン企画

□「何の実験かと思った」
1ページ/1ページ



チョコレートの匂いはそこまで好きじゃない。というか、苦手。
上機嫌そうなアメの鼻歌をBGMに、粉々に砕かれたチョコレートを湯煎にかける。
何故、嗚呼何故おれが。
「乙女の大事なイベントなの!」と、鬼気迫る表情でアメが殴りこんできたのは1時間前。
新しいピアスを注文しようとターミナルと睨めっこをしていた俺に蹴りかかり、アメはおれの鼻先にチョコレートをぶら下げた。
「あたしと一緒にチョコ作りなさい。上官命令よ」
そういえばこの女料理が苦手だった。


「何作んだお前」
「石畳チョコ」
そう言いながらタバスコとバニラエッセンスに手を掛けた彼女の手を引っ叩き、冷蔵庫からバターを取り出した。
「何でチョコにタバスコなんだ馬鹿かお前ああそうか馬鹿だったな」
「だってソーマは甘いものあんまり好きじゃないじゃない」
だから辛くしようと思ったのよ、と自信満々にふんぞり返った。この女根本的な部分が間違っている。
「や、ありえねぇ。ソーママジ可哀想こんな女から貰うなんて…」
最終的に作ってんのおれだし…と溜息と愚痴を吐き出せば、ぎろりときつい目でねめつけられた。
「なによもう!何なのよ!」
「おれの台詞だ馬鹿」
鼻歌は消え去り、すこしだけ不機嫌になった彼女は今度はビネガーに手を掛けた。
だから根本的な部分が間違っている。
憐れソーマ。合掌。

冷やし固めたチョコを綺麗にラッピングし(此処までやってあげた俺偉い)アメに押し付け部屋から追い出し、バガラリーを抱えたコウタが押しかけてきたのはほんの数分後。
今日はなんだか妙に忙しない。
「やー、なんの実験してんのかと思ったよ」
「はぁ?なんで?」
にひひ、と子供じみた笑みを湛えたコウタは嬉しそうな声でいやぁ、と声と紡いだ。
「アメちゃんの怒鳴り声はするし怪しい音はしてるしエディの悲鳴は聞こえるしで明らかに尋常じゃない雰囲気だったからね」
コウタの豪快な笑い声を尻目に、今現在酷い有様のキッチンを思い浮かべて少し切なくなった。あの片づけをひとりでやると思うと相当気が重いのである。
「あー…はは、は…」
乾いた笑いを肯定と受け取った彼は、嬉々としておれに問い質した。
「でさ、何の実験してたの?やっぱ新しいバレットとか?」
「あー、うん…いや、あの…」
「うん?」
純真無垢な瞳が痛い。
耐えきれず視線を流し、小さく呟いた言葉にコウタはがっつり固まってしまった。

「あの…チョコ、作ってました…」
「…何で悲鳴?」
「アメちゃんビネガーとかオイルとかタバスコとかチョコにぶっ込もうとするから…」
「…憐れソーマ」

fin

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ