ひばやま

□愛しいからこそ!
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喉がかわいた
そう思って手だけを伸ばし、辺りを探る
確か飲料水の入ったペットボトルが近くにあった筈だ
暗闇の中、手を闇雲に動かす、と
ごとん、と小さな音がして何かが倒れる音がした
ああ、これかと発見した事による小さな達成感を感じながら、手にしたそれの蓋を開け、中身を口に含む
冷蔵庫から取り出して数時間経っているそれは温かった

ごくり、と喉に飲料水が通る音を耳にしたのか、ふいに横にいる人物が声を上げた

「あ、ひばり」
その声は少し枯れていて、それもそうかと頭の中で自己完結
名前を呼んだのに聞こえ無かったと思ったのか、それとも、無視をされたと思ったのか、やはり彼は少し枯れた声でもう一度
「なーひばり、」

僕の名前を呼ぶけれど、名前を口にするだけで、用件を口にだしやしない

「………」
ちゃんと口に出して言いたいこと言え、と視線だけ送り一瞥する
すぐ、人の事を言えないなと心の中で思った

「それ、ちょーだい」
それ、とは僕の手にあるペットボトルの事だろう
どうやら彼も喉が渇いているようで
というか、よくこの暗さでペットボトルが見えるな、と逆に少し感心してしまった
それを表情や言葉に出すつもりは毛頭ないが

「どうしてこれが、欲しいの」
そんなことを聞かれるとは、思っていなかったのか、ただ単に、すぐに渡してくれない事をもどかしく思ったのか、彼は少し困った顔をした
ただ、そんな顔をされたところで、すぐに渡してはやらないけれど

「喉がかわいたのな」
そもそも、理由なんて分かりきっていた(というか、それ以外にない)けれど、何と言うか、彼をからかうのは何時だって面白くて仕方がない
(…まぁ、いいか)
取り敢えず、今回はここで渡してやろうか
「はい」
「サンキューな」
そんな思いで、僕は、彼にペットボトルを手渡した

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