短編

□浅葱色の残響
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俺の部屋にはユーレイが出る。
そのユーレイは、俺と同じ年頃で、若い。
服装は…なんだろう、とりあえず昔の着物を着ていて、腰には刀を下げている。

そして、


そのユーレイは、いつも無邪気に俺に笑いかけてくるんだ。






浅葱色の残響






ソイツが部屋に現れたのは、二、三週間前。
俺の部屋に、奴は突然現れた。
びっくりして、腰が抜けてしまったっけ。

奴は、声がでないようで。
よくよく首筋に目を凝らすと、線がぐるりと奴の首を一周していた。
…声帯が切れ、というか、首を落とされて死んだらしい。


そうして奴は、俺の日常に溶け込んでいった。






真夜中のこと。
俺は自分の蒲団から、ばっと飛び起きた。
…何だか、悲しい夢を見た。気がする。
内容は覚えていないのに、胸の奥がきゅう、と締め付けられた。
感情の渦が、俺の体中を支配していた。
頬を伝う、幾重もの涙の筋は、困ったことに止まってくれない。

辛い、苦しい、何故、何故、どうして、



「…なん、で」





《何故私より先に逝った、…――!》






これは、誰。






「…なぁ、ユーレイさんや」

声が出ることのないユーレイに、呟く。

「俺、今日変な夢を見たらしいんだ。」

ユーレイは不思議そうに首を傾げたけれど、俺はそのまま言葉を重ねた。

「夢の中身は覚えて無いんだがな、これだけはハッキリと、覚えてるんだ。
もの凄く、恐ろしくて苦しくて辛くて、悲しい夢だった」

無意識に、言葉が零れた。



「…何故、
何故私より先に逝った、…――」



紡いだ瞬間、ユーレイは俺を、

抱き締めた。

ふわり、あたたかな感覚に包まれて。
俺の目から、また勝手にみずが溢れ出して。
終いには、泣きじゃくって。

「…わた、しは、」

あなたを、愛している、と。
ひどく、そう思った。

「…分からない…なんで、俺、」

ぼやける視界、その中捉えたのは、



ひどく愛しそうに笑む、ユーレイだった。





《…いつかかならず、逢いに来るよ》

《どんなに時が経とうとも、》


《お前を、愛しているよ》








ユーレイは、消えた。






+++++






あれから、また一年、一年と過ぎて。
新学期である。

あのユーレイを忘れることが出来ないまま、俺はまた一つ、年をとった。

多分。
俺の勘だけど。
きっとあのユーレイと、俺の前世か何かは好きあっていたんだと、思う。
それだけ分かれば、もう良いんだ。

今はただ、必ず逢いに来ると言った彼を待とうと思う。





浅葱色の残響



終わり。

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