さんにんのゆくえ2
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「愛斗…」
「…っ!?」
壁に押し付けられる王道くん。なんか…無理強い?してるのか、あの会長サマ。
BL小説で襲われかける受けを読んだり見たりするのは好きだけれど、それはあくまでもそれが起きているのが小説の中での話だからだ。
現実で見てしまうとやはり、頂けない。
男同士だろうが女同士だろうが、勿論男女であろうが、そういうことをすんのは想いが通じ合ってだろう。ましてや無理矢理など、最低の行為だと俺は思う。…それがたとえ軽いキスとか、でも。
「おおっと体が滑ったぁぁあ!!」
「なっ、ちょ、ぐへぇっ?!」
会長に思い切り体当たり。
ドベシャア、と廊下をスライディングする会長をちらっと一瞥した後、迷わず王道くんの腕を掴んだ。
「…は、」
「逃げんぞ、俺怒られんのって怖いからヤなんだ」
そうして廊下を駆け抜けた。
「お前、緑茶飲めるか?」
「あ…うん」
「なら、ほい。そこのポットにお湯入れてあるからコレに注いで自分で飲んでいーぞ」
「…ありがと」
俺の部屋(であり竜騎と武流の部屋)に王道くんをあげたのはいいものの、俺は彼の大人しさに思わず拍子抜けしてしまった。なんなんだこの子。騒がしくする事もなく静かにソファに座っている。背筋もピンとしていて、気品のある座り方だ。
この『柿本愛斗』なら、友人になれそうである。
「…アンタの、名前は」
「俺は不破桃耶。お前は?」
「…………」
「ん?言いたくないなら、言わなくてもいーんだぞ」
名前、知ってるし。
そう思っての発言だったが、彼は俺の予想を斜め上に飛び越えていったのだ。
「…助けてもらったアンタに、俺の偽名を名乗りたくはない、から」
「……ぎ、偽名?!」
「それに俺はアンタの名前を本当は知っていた!それなのに…それなのに俺は、知らない振りをして、」
「あー、ちょ、待て待て、俺も今情報の整理がついてねぇから!」
とりあえず竜騎と武流に暫く部屋に入って来るなというメールを送り、彼の前に座る。なんだか話が変な方向に行ってないか、ヲイ。
「えーと、まず、まずな。お前の偽名は?」
「柿本愛斗」
「…なら、本名は…あ、言いたくなけりゃ言わんでもいいけど」
「……此花咲耶(このはなさくや)だよ、不破」
そう言って分厚い眼鏡とボサボサの黒髪に手を伸ばし、剥ぎ取った王道くんもとい柿本愛斗もとい此花。やはり髪はカツラであったようだ。
黒髪のカツラから零れた髪は、透明感のある白い髪。長い長い睫毛に縁取られた瞳は零れそうに大きく、色は蜂蜜色。まぁ俺の乏しい語彙では言い表せないくらいの可愛らしい少年だった。誰かに似ている気も、する。
此花はテーブルにカツラと眼鏡を置いて、ゆったりと足を組んだ。唇の端をくいっと上げるその姿は、まさに優雅。
…ああ、そうか。
「そっか、此花ってなんか理事長とか会長に似てるんだ」
俺の言葉に目を丸くした此花。ややあって、クスクスと彼は笑い出した。
「…不破、お前最高だよ」
「何が?」
「アンタなら、全部信頼できそう。俺もそろそろ疲れてたからね…」
彼の口から出てきたのは、俺の思考回路をショートさせるには十分だった。
「俺はココの理事長の甥であり、今の生徒会長の腹違いの兄弟なんだ」
…これ、なんて昼ドラ。
12,01,18