僕は君が理解できない

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将にはとある二人の舎弟がいる。

…いや、舎弟といえば違うと思う(っていうかまず将は不良じゃないから根本的に違う)んだが、まあとにかく将には舎弟みたいなものがいるんだと思ってくれればいい。片方はドーベルマンみたいなやつで、もう片方はゴールデンレトリバーみたいなやつなのだが、その二人の片方−−−ドーベルマンみたいな方のやつの縦倉洋平(たてくらようへい)くんが、僕に話しかけてきたのは、神永と朝登校してきて分かれた廊下先だった。


「ヒナタさん、あの、気を付けた方がいいですよ」
「…なに、に?」
「神永…神永翔太郎にですよ」


え?





僕は君が理解できない





ヨウくんはその190を優に越す長身を少しかがませて話した。目が合わない相手が苦手な僕に対する優しい配慮である。彼は見た目こそかなり悪そうな出で立ちだが、将の舎弟(みたいなもの)だけあり、性格は温厚で人に対する接し方がとても上手だ(しかし僕の耳にはかなり悪い噂しか流れてこないのはこの際目をつむる)。


「なんで?あいつ確かに悪い噂ばっかしか聞いたことないけど結構普通で、あんまり怖くないよ」
「…うーん、ヒナタさん、俺が言いたいのはそういう系ではなくて…」
「え?」
「…いや、分かってないのなら、大丈夫です。それに将さんもいるみたいだし。あ、とにかく」
「…とにかく?」
「神永翔太郎には気をつけてくださいね!俺ヒナタさん好きですから!」
「あはは、ありがとう」


ぶんぶんと手を振って、一年の教室と反対の方へ走っていくヨウくん。…またサボり…いや、ちゃんと腕章をつけてのサボりとなると、粗方風紀の仕事にでも行ったんだろう。真面目だから、とりあえずは。
僕は教室のスライド式のドアを開けて、自分の席までいく。先ほど分かれた神永はいない。当たり前だ、あいつはやっぱめんどいや、と呟き屋上へと行ったんだから。


「はよ」
「おはよ、将」
「お前さっき洋平に話しかけられてたか?」
「うん。神永には気をつけろー、みたいなこと言われた」
「…ふうん」


視線を教室の方へ向けた将の瞳が、眼鏡の隙間からのぞいた。その目はぞくっとするほど冷たくて、僕はぶるりと肩を震わせてしまったから、将の目が僕を映す。将は地を這うような声で、僕を呼んだ。


「日向、」
「な、なに、」
「洋平がお前に直で言うくらいだ。マジ、気をつけろよ」
「え」
「つか、お前俺か神永から絶対に離れんなよ」
「なんで?」


困惑したままの僕をよそに、将は顎に手を当てて何か考えていた。





僕には、分からない。
だって僕は僕が気づかぬままこの時この瞬間まで、将に守られていたのだから。





11,01,24





 

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