緋月
□つまりは、そういう事。
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兵助が良く悪夢を見る。
そんな事実を知ったのは入学して間もなく。1年生の夏休みを迎える少し前だった。
その日は梅雨の真っただ中で、じめじめとした空気が気持ち悪いなか眠りについた。
未だあまり慣れない学園生活で疲れた所為もあってか、すぐに眠りにつけたのだったが、真夜中に目が覚めてしまった。
むくりと起き上ってあたりを見渡すと、肌かけを行儀良く肩までかけた兵助がいた。
暫く、蒸し暑いなか気持ち良さそうに眠る兵助を羨ましそうに眺めていたが、目を擦りながら異変に気付いた。
薄暗い中でも確認できるほど肩を上下に動かすその姿は苦しそうで、近寄ってみれば微かに漏れる呻き声と嗚咽が聞こえた。
「兵助?」
「………」
問いかけに返事はなく、胸が締め付けられるような息遣いが耳に入ってくるだけだった。
「兵助…」
枕元まで近寄って、苦しそうに何かを求めるように震える兵助の手を握った。
べたべたするだとか暑いとか、さっきまで考えていた事はすでに頭から消えていた。
う…、と小さく声を漏らした兵助の額には汗が滲み出ていて、閉ざされた瞳からは涙が溢れていた。
今まで一度も泣き顔なんて見た事など無かった勘右衛門は酷く衝撃を受け、一晩手を離す事はできなかった。