硝子玉の跡

□序
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1、蒼いビー玉の記憶










とある都会の郊外に、不自然なくらいぽっかりと森がある。
ある程度の広さを持つその森は茶道の家元の私有地で、数個の茶室をはじめ道場をも有している。
一歩外に出れば騒がしい街にでるが、そこだけは静かな田舎のようだった。



その一角には家があって、1人の少女と彼女の両親が住んでいた。
母親は茶道、父親は剣道を教えていて、少女はいずれどちらかを選ばなければいけなかった。

しかし彼女はどちらも選ぶことができなかった。正しく言うと、選びたくなかった。
少女にはやりたいことがあった。家にいてはできなくてもどかしい。
家を出ていきたいと考えていた。



少女は幼い頃から変わっていた。
厳しい父と母のもと、『おしとやかに』をはじめ女の子らしくなどとしつけられてきたのに、ふとしたところで男みたいな口調を使う。
妙に大人びていて、同年代の子どもよりも多くの事を知っていた。
それは知識というよりも悟り。そして何よりも冷めていた。

少女の部屋は物が少なかった。
大きくなるに連れぬいぐるみも装飾品も減っていった。
だが、彼女は1つの小さな箱だけは捨てることはなかった。箱にはいくつものビー玉が入っていて眺めるのが少女の暇潰しの1つでもあり、大きくなっても集めることは続けていた。




彼女にとってビー玉は何なのか。

それは彼女にしか分からなく、彼女が言うこともなかった。











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