緋月
□かなってもかなわない
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休日の昼下がり。こんな日は、出された課題もやる気が起きない。
縁側に腰かけ、学園長の庵から持ってきた一口羊羹をつまむ。
鉢屋と雷蔵は2人で街へ出かけたし、八左ヱ門は委員会。
「あ〜あ…暇だなぁ」
呟いて、お茶を啜る。
兵助は朝から姿が見えない。いるであろう場所の目星は付くけど、行く気もない。
3つあった羊羹も完食して、ほんの少しだけ残ったお茶を飲み干した。
欠伸を噛み殺しながら寝転がって目を閉じる。
弱い日差しが気持ち良くて眠気を誘った。いっそそのまま眠れればよかったのに、ふと影が差して、俺は反射的に目を開けた。
「悪ィ勘右衛門、起こしたか?」
「八左ヱ門…」
ああ、やっぱり眠ればよかった。寝たフリでもしとくんだった。
後悔しながら起き上がる。
「どうしたんだ?」
「兵助、知らないか?」
「…知ってるけど…委員会は終わったのか?」
「ああ。早めに終わらせて兵助と街行く約束してたんだ」
聞かなきゃ良かった。そう毒づいて、自己嫌悪。
「多分煙硝倉。下級生の手伝いでもしてるんだと思う」
作り笑いでそう答えて、ずい分仲がいいんだね、と皮肉ってやった。
八左ヱ門には意味のない事だけど。
「え?あ、ああ…まぁ、な」
案の定、照れながらそう言った。
小さくため息をつきそうになった時、八左ヱ門が続けた。
「でも勘右衛門には敵わねぇよ」
「…は?」
「だって、俺は兵助がどこにいるかなんて分かりっこないから」
「…………」
「さすが勘右衛門。じゃ、ありがとな!」
そう言って走って行った八左ヱ門に、何も答えれなかった。
『かなわない』ってそれは嫌味?
本当はずっと分かってた。
ずっと思ってた。
俺は…
八左ヱ門に敵っても、叶わない。
end.