緋月

□5
1ページ/1ページ



君に言えなかったことがある




好き。


君が好きだということ。




※竹くく死ネタ注意












竹谷とは良い友だちだった。


2年生の時に知り合ってから今まで。

クラスは違えど一緒に学び、遊び、生活を共にしてきた。

何でも言い合えるその距離は心地良くて、大好きだった。


だけど、竹谷との“良い関係”は5年の始めに唐突な終わりを告げた。


6年に混ざって初めて参加した委員長会議の帰り道。綺麗な夕日を背に、アイツが立ち止まって言った。



「好きだ」


確かにそう形作った竹谷の口。


理解できなかった。



たけやが…


おれを…


すき?



理解…できなかった。





俺はその場から走り去り、それ以来は竹谷を避け続けた。


勉強、実習、練習、食事。


当たり前のように一緒にやっていた事をしなくなった。


否。


できなかった。



そうしてそのまま俺たちは5年恒例いろは合同の難関実習を迎えた。


竹谷への答えができた矢先だった。





























失敗した。


誰が、はない失敗。





俺らの班は各クラスの成績上位者からなる精鋭班だった。

仕事は弱り切った敵の逃げ道に待機し、敵が炙り出されたところに畳み掛け、全滅させる事。

僅かな油断や奢りが失敗を招く。今回の実習で一番難しいと言っても過言ではなく、この班が成功すれば忍務成功。失敗すれば忍務は失敗。故に失敗は許されなかった。


が、結果的に失敗した。

敵が炙り出されたまでは良かったのだが、敵方に援軍が現れ、戦局は裏返った。

すぐさまこの班のリーダーが退避を指示したが班は散り散りになり、誰が無事でどこにいるのかも分からない。

勿論それは俺も例外ではなく、敵と戦う内に随分外れた場所へと来ていた。






「参ったな…。勘右衛門ともはぐれちゃったし…」


そう独りごちて、ため息をつく。

今は動かないが先ほどまで戦っていた敵に踵を向け、もとの場所へ戻ろうと足を踏み出した時だった。


「兵助…か?」


上から聞き慣れた声が俺を呼んだ。

まさか、とぎこちなく上を向くと、そこには竹谷の姿。頭巾はボロボロに破れ、切り傷が見える。


「竹谷…」

「やっぱり兵助だった。良かったぁ誰かと合流できて」

「うん。俺も良かった。…怪我、平気か?」

「ああ、平気。体はちゃんと動くし。兵助も大丈夫か?」

「大丈夫。それよりも早く皆と合流しなきゃ」

「ああ。急ごう」


その声が終わるか終わらないかの内に2人同時に地を蹴る。

早く終わらせたい。終わらせて竹谷に言いたいんだ。あの返事を。









次の瞬間視界が真っ白になった。


背中が木に勢い良く当たって吐き気がした。

何が起きたのか分からずに、よろよろと立ち上がる。



目の前で繰り広げられる戦いに唖然とした。


「竹谷!」


痛む背中を無視して走る。


「兵助、行け!」

「な…嫌だ!俺も戦う」

「兵助…」

「絶対、1人にしない」

「そっか。じゃあ、やるか」

「ああ」


違う。ただ本当は1人になりたくなかっただけだ。でも今はいい。そう言うのは無しにして。


戦うんだ。






















「兵助、あらかた終わったか」

「うん。…行こう」


見えるだけの敵を倒して安心した。

この忍務を遂行させる為にしはいけないことは油断。


「兵助!」


その声と同時に、視界が歪んだ。

地面に手を付く。


「たけ…や…?」


崖の向こう側に竹谷が見えた。

竹谷の足もとに地面はなく、とても長い一瞬の間に竹谷の姿が消え去った。


「竹谷…」


後ろから歩み寄った気配に手に持った苦無を投げつける。

小さな悲鳴と共に倒れこむ音。

そんなのはどうでもいい。

それより…。


「竹谷?たけやぁ!?」





俺の叫びに返答はない。




こんな時まで頭は冷静で。




崖から落ちた竹谷とその胸に刺さった苦無。




その事実が脳を駆け巡った。




最後に見えた竹谷の微笑が頭に舞い戻った。










「竹谷…たけ…やぁぁぁぁ!!」






そう叫んでも呼んでもなにも変わらない。

足の力が抜けて、頬には涙が伝った。











竹谷、伝えたかった事があったんだ。




告白されて何もできなくなったのは竹谷のことが好きだったから。




竹谷が好きだったからだ。













「竹谷…ごめん。伝えきれなくて。ごめん。本当に…」





























大好きな君に言えなかったことがある。



君が大好きだった。



それだけの重大な事。







end.


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ