緋月

□4
1ページ/1ページ




君に言えなかったことがある




ありがとう。



君にお礼を言いたかったこと。






※鉢雷死ネタ注意












「三郎、ありがとう」



そう、優しい声で、雷蔵から何回の感謝の言葉を貰っただろう。

そして私はその言葉にどれくらいの気持ちを返すことができただろう。


自問自答を繰り返しても答えは見つからない。

だけど、本当にその回数を数えるならば、もうややこしく回数が重なることもない。


雷蔵からの『ありがとう』はもう聞こえない。

私からの『ありがとう』はもう届かない。


一人を散々嫌った私は今まさに、独りで月を見上げていた。














雷蔵から『ありがとう』を初めて貰ったのは、学園に行く道中だった。

2つに別れた道は雷蔵の歩みを著しく遅めていた。

道祖神のすぐ横で頭を抱えていた雷蔵は、私が道を教えると、笑顔を浮かべて言ったのだ。


『ありがとう』


と。








なら、雷蔵からの最後の『ありがとう』は?









「三郎、今までありがとう。これからも…生きてね」






























僅かに力を込めた拳の中で、血のついた布がもがくようにはためいた。




すまない雷蔵。




こんな私を好きになってくれてありがとう。





最後にもう一度だけ言いたかった。






血に染まる前の君と、大馬鹿な私で。































君に伝えたかったことがある。




ありがとう。




人生最大の、お礼を言いたかったこと。







end.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ