緋月

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こへ滝。






雨上がりと君の笑顔









「滝夜叉丸、私は雨は嫌いだ」





隣りに座る後輩に何となく呟いてみる。

呟くこととなった原因は勿論現在進行形で雨が降っているからで、

涼しい。ではなく、蒸し暑い天候に、ムカムカしてきた。





「そうですか?私は 好きですよ」





涼しい顔で返されて、私は思わず滝夜叉丸を見た。





「何でだよ。外で遊べないしムシムシするし…嫌な事だらけだろ」

「確かにそうですけど。それに…私だって雨自体が好きなんじゃありません」





滝夜叉丸がそう言う理由が何となく気になって身を乗り出すと、

滝夜叉丸は外を眺めながら呟いた。





「雨…止んじゃいました」

「え?あ…」





つられて外を見ると、今の今まで降っていた雨は気持ちのいい太陽を残して消え去っていた。

滝夜叉丸は縁側からひょいと地面に下りて言う。





「綺麗じゃないですか」

「ん?」

「雨上がりは何もかもが綺麗で好きなんです」





確かに至る所を濡らした雫は日光に反射して綺麗なのは否めない。

雨上がりの空は青が眩しいし、空気すらも綺麗に感じる。



ああ、でも、だけど…





「私、やっぱり雨は好きじゃない」

「七松先輩…」

「だって、雨上がりよりさ…」





言いながら、滝夜叉丸の横に立つ。





「滝の方が綺麗だし」

「………え?」

「滝、好きだよ」

「っ!な…ななまつ先輩…」





さっきまでの涼しい顔とは打って変わった滝夜叉丸の赤面っぷりはとても可愛い。



確かに何かが綺麗でも、それが滝夜叉丸より下ならつまらない。

私の行動を妨害するものは滝夜叉丸以上じゃないなら許さない。



まぁ、つまり今のところ、私の妨害が許されるのは滝夜叉丸だけ。



私が自分以外に大切な、数少ない物。



「私も好きです。七松先輩」



小さく呟いて笑った滝の笑顔は雨上がりの何よりも綺麗だった。







君の笑顔。


綺麗で、大切で、



守りたいと想うもの。















end.

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