エメラルド

□一秒でも長く
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静寂した空気に俺の呟きが少しばかり響き渡る。


俺は、はっと意識を戻し慌ててもう一度向きを変える。


「お、お、おおい、と、富松………お前まさか…」


富松は俺の言葉にならない言葉に答えを返すかのように、手にあったくじを俺の目の前へと突き出してきた。



そのくじに書かれし数字は


「……3」

俺はもう一度自分のくじを見直す。

そして、それを自分の顔の前まで持ってくる。



「3だ………。」

「よりによって、てめェと………」

「それはこっちの台詞だ!」



互いに同じ数字。

つまりは組と言うことだ。

背中に嫌な汗が伝うのがわかる。

だか、相手は差ほど気にしていない様子で、でもどこか納得のいかない、…そんな顔をしていた。



そして、どこを見ているのか目はどこか遠くを見つめていて…………まるで目の前にいる俺なんて眼中にないかの様に。



俺はこの時心臓部がズキッと痛むのを感じたのは気のせいではないと思う。


「早く行くぞ。俺達が最後みてーだしな」

「あ、………あぁ。」


俺は若干目を伏せ気味に返事をする。










山の木々たちの間を素早く駆け抜ける。

俺の目の前を走る富松。


流石三年生と言うべきなのだろうか?


走るスピードも、所々に仕掛けれしトラップの避けかたまで、俺よりもずっと上だった。


二と三。たった一年でここまで差をつけられると、無性に悔しくて思わず奥歯を強く噛み締める。


あぁ、まただ。
この時また心臓部がズキッとなったのを感じた。



「止まれ」

いきなり富松の動いていた足が止まり、俺の前に腕が伸ばされる。

ここで俺の足、そして思考までもが急停止する。


「ど、どうしたんだよ!」

「あれ、見ろよ。」


俺の問いに富松は指である一点をさして、答える。


「あ、あれは、巻物!?」

「あぁ。簡単に見つかってよかったな。問題はあそこまで、どー行くかだ」


富松は困った様に眉間にシワを寄せ、自分の顎に手をあてる。


確かに易々と行けるような領域ではないことくらい見ればわかる。


だが、ここで行く事を諦めたらならば、また探しに走り回らなくてはいけない。


それでなくとも、他の組よりも遅れている俺たちにそんな時間はない。











「俺がとってきてやるよ。」


気がつけば口だけが先走っていた。どうして俺がこんなことを言ったのか自分自身でもいまいちわからない。


でも、もしかしたら俺はただこいつに認めて貰いたいだけなのかもしれない。

そんなことを考えている自分が可笑しくなり思わず口元に小さな三日月状の弧を描いた。






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