現代系統

□保健医の受難
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鳥羽鷹春。とばたかはる。
聖ヨセフ学園高等部の3年1組の生徒であり、保健委員会員。
校則が非常にゆるいこの学園では珍しくない脱色染色された金に近い茶髪は今時の若者らしくワックスでセットされていて、悪戯小僧染みた顔付きも相まって酷く軽い印象を受ける。
これで首席の成績を1年の初期から維持していると言われて信じる人間はいないだろう。

本人曰く、

『医者になりたい』

からだそうだが、夢だけで生きていけるような職場でもないし、憧れだけで続けていけるような職業でないことを、俺は知っていた。

ソファで暢気に足を揺らし楽しげに見つめてくる鳥羽に目をやると、視線が合ったことに気付いたらしく悪戯っぽい笑みを返してくる。
それが、なぜか癪に障って椅子から立ち上がると羽織っていた白衣を脱ぎ捨てコート掛けに投げ掛けた。

裏庭に続くガラス戸を開けて外に出るとスラックスのポケットに忍ばせていた煙草とライターに手を伸ばす。
赤と白のツートーンでデザインされたパッケージを振るとちょうど一本出てきてそれをそのまま口に運び、煙草と共に取り出したライターで火を付ける。
最初の紫煙はすぐに吐き出し次の紫煙を肺まで吸い込む。
手に慣れたライターは使用頻度が多いせいか新品当時ペイントされていた模様も既に消え失せ、ただくすんだ銀色で光もそれほど反射しない。
何が描かれていたっけ…。

「税金上がったら禁煙するとか言ってなかったっけ?」

不意に掛けられた声に振り向くと直ぐ前に鳥羽の顔。

「っ…近いっ!」

余りの近さに余裕を無くし、煙草を持たない手で押し離そうとしたのが悪かった。
鳥羽が離れた時には、握りしめていたライターが俺の手から消えていた。

「………どこだ…?」

金属が落ちた音は全くしなかった。
それでも足元に視線をやるが、やはり無い。
不意に視界の端に微かな光を捉えた。
手が何かを受けとる音が繰り返されていることに気付いて顔を上げると、そこには新しい玩具を与えられた幼い子供のような満足げな笑顔を浮かべる鳥羽の顔と、宙へ放り投げられては光を微かに反射してその手へ返っていくライターがあった。


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