Livingroom

□教えて
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ねぇ、本当かなぁ?










教えて











「小十郎」梵天丸様がとてとてと俺のところへやって来た。俺は書き物をしていた手を止めて、梵天丸様を見る。後ろ手に何か持っているらしい。
「いかがなさいました?」そう言いながら目を向けた主は、いつもの可愛らしい笑顔ではなく、全くの無表情だった―そう、まるで、初めて会った時のように。
「母上が、梵にこれを下さった」そう言って梵天丸様は俺の手に、持っていた何かをぽとり、と落とした。見てみればそれは、銀色に輝く小刀だった。俺は訳がわからなくて、黙ったまま幼い主を見た。梵天丸様は言いにくそうに口を開いた。
「それで、自決してみせろ、と…屍となったならば、その時こそお前を愛してやろう、と。生きているままのお前を…愛する者などいない、と」俺は最初、梵天丸様の言っていることが理解出来なかった。ややあって、漸く意味を理解する。何てことを…何てことを言うんだ、あの人は!?俺は怒りにまかせて小刀を部屋の隅へ投げ捨てた。
「こじゅ、」
「…いけません、梵天丸様。俺はもとより、輝宗様も綱元殿も時宗丸様も皆、貴方に生きていて欲しいと思っているのですから。皆、貴方を慕っているのです。義姫様は間違っておられる」俺がそう言い切ると、梵天丸様はじっと俺を見つめた。その大きな瞳に光が見えた、そんな気がした。
「…わかった。梵は、小十郎を信じる」無礼な事を言ったのはわかっている。だが、それは俺の本心だった。そして、梵天丸様もそれをわかって下さったようだ。
「ただ、一つだけ教えてくれ」
「…何でしょう」その大きな瞳に、僅かに陰が落ちる。何がくるのかとびくびくしながら促せば。
「もし、梵が母上の言葉に従ったら…母上は、梵を、」




















―愛して、くれただろうか?






















掠れた声で、だがはっきりと紡がれたその言葉に―俺は答える術を持っていなかった。

あぁ、俺はとんでもない役立たずです、貴方の言葉に、何を答えることも出来やしない。だって、本当はわかっていらっしゃるのでしょう?貴方は哀しい程に、聡い方だから。





俺は黙ったまま、その震える小さな体を抱きしめた。俺に出来ることは、それだけだったから。





Fin.

 

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