ラッキーマン

□娘々物語
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「う〜…どうしたものか…」


努力は悩んでいた。
いまだかつてこれ程までに悩んだことなど…あるかもしれないが悩んでいた。
それは、先日まで中国で修行していた時、誤って泉に落ちてしまった時からずっと。
普段なら直ぐにでも、師匠と慕う洋一や、兄達に相談するのだが事が事なだけにそれもいかず。
しかしバレた時にどんな反応が返ってくるかなど、想像すらできない。
もしかさたら呆れられ、見放されてしまうかもと思うと、やはり誰にも相談できなかった。
中国に滞在している間に何とかならないかと方法を探したが、空振りばかり。
兄たちから言い渡された期日になり、努力は肩を落として日本に帰ってきた。

そして今現在、自分の部屋で帰った早々引きこもり中。

何度か兄達がどうかしたのか訪ねてきたが、なんと言っていいのかわからずはぐらかすばかり。


「はぁ、本当にどうしよう…」


何度同じ言葉を、溜め息と一緒に吐いただろうか。
しかし誰に届くわけでもなく、ましてや答えが返ってくるわけでもなく。
それがより一層、努力を気落ちさせていた。


「努力、ご飯ができたよ」


コンコンとノックと共に、友情が入ってくる。


「スミマセン、友情兄さん。やっぱり食欲が無くて…」


この台詞も、日本に帰ってから何度言っただろうか。
最初は風邪かと心配されていたが、風邪ではなく何か思い悩んでいると分かると、兄達は親身に話してみろと言ってくれる。
とても有難いことなのだが、やはり相談する勇気はなかった。


「でも努力、ずっとそう言って食べてないでしょ?何か食べないと身体に悪よ」
「でも…」


困ったように眉を八の字に下げる兄を見て、申し訳ない気持ちが積もる。
だけどもやはり断ろうとしたところで、正直なお腹の虫がキュルキュルと鳴った。
恥ずかしそうに顔を赤くする弟に、友情は優しく笑うと、ご飯を食べようと努力の手を引いて長男の待つ食卓に向かった。
















数日ぶりに顔を見せる末っ子を、勝利は眺めていた新聞から目を離し見た。
居心地悪そうに椅子に座る努力に、なるべくいつも通りに接しようと思うのだが、思うばかりで行動にうつせない。
なにぶん彼は末弟を溺愛しているため、何よりも先に何を悩んでいるのか気になってしょうがなかったのだ。
そんな目一杯心配してくる視線を受け、ますます縮こまるが、友情がタイミングよく美味しそうな食事を運んできてくれた。


「さ、今日は努力が好きなものを作ったから、冷めないうちにはやく食べよっか」


次男の言葉に、ようやく久々の3兄弟揃っての食事が始まる。
こんな時、頼りになるのは話上手な次男で、ペラペラと最近あった話題を話していく。
それに小さく相槌をしている長男と、下を向いてぽそぽそと食べる末弟。
いつもならば努力が熱心に次男の話を聞き、長男は聞いているのかいないのかわからない感じであるというのに。
はっきり言って、勝手が違いすぎる。
しかしやはりと言うか、この空気に堪えられなくなったのは、長男の勝利であった。


「おい努力、いい加減にしろよ」
「ちょ、勝利兄さん!?」
「何悩んでるのか知らねえが、辛気くさいんだよ。話さねえのはお前の自由だけどよ、だったら食う時にまで持ち込むな」
「兄さん、言い過ぎですよ!」
「友情は黙ってろ」


勝利に睨まれ、友情は二の句が告げなくなる。
だがここで、勝利に言われた言葉でまた努力が悩み、あの日のように出ていってしまうのではと。
そう考えただけで、心が凍りつく。
あんな思い、例え努力のためだとしても懲り懲りだ。
友情とて、努力は世界一愛しい弟なのである。


「いいえ、言わせてもらいます。努力だって色々考えたり悩んだりします。今日だって私が無理矢理一緒に食べようと言ったんです。努力を責めないでください!」


友情のまさかの反論に、努力だけでなく勝利も驚いたが、一瞬面食らった後は原因である努力をそっちのけで睨み合った。
さすがにこのままではいけないと、ただただオロオロとしていた努力は意を決して止めにはいる。


「二人とも止めてください!!僕のせいで喧嘩しないで…」


若干涙声の努力に、二人は慌てて喧嘩を止める。


「な、泣くな努力!!」
「そうだよ、もう兄さん達は喧嘩してないから」
「本当に?」
「「本当だ(よ)!!」」


兄達の言葉によかったと、久し振りに笑顔を溢す。
やはり努力は笑っていた方がいいと、勝利と友情は改めて思った。
今なら、何を悩んでいるのか話してくれるかもしれない。


「努力、私達は本当に努力が大切なんだ。だから何を悩んでいるのか教えてくれないかな?」
「あ…」


友情が優しく聞いてくる。
それにまた暗く俯きそうになるが、ポンッと勝利が努力の肩に手を置いた。


「俺らじゃ、頼りになんねぇか?」
「そんなことはっ!!」


勝利の言葉に慌てて否定する。
何よりも誰よりも頼れる兄に、そんなこと一度も思ったことはない。
なら、と目で訴えられ、努力は少し沈黙した後、ポツリポツリと重い口を開いた。







「実は…呪いで水を被ると女になってしまったんです…」











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