ラッキーマン

□娘々物語
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努力は緊張していた。
まともに相手の顔を見れないくらいに。

規則正しく上下する動きは確かに心地よいのだが、いかせん現在進行形で自分の状態に落ち着けるわけもなく。
だからと言って逃げ出すこともできず。
せめてと思い、忙しなく視線をさ迷わせるしかなかった。




事の発端は、数十分くらい遡る。
いつもの様に修行をしていると、師匠である洋一の不運に巻き込まれ足を挫いてしまった。
そこにたまたま通りかかった顔見知り…天才マンに出会い頭に状況を把握され、動けないでいる努力を家まで送ってくれるという。
ちなみに洋一は、不運の元凶であるです代に連れていかれてしまった。

手を差し出す天才マンを見て、努力は躊躇う。
さほど仲が良いというわけではなく、どちらかと言うと天才マンは兄の勝利との方が関わりがあった。
同じヒーローの仲間であるが、だからと言ってここで手を借りるのもどうかと考えてしまったのだ。

戸惑う努力に、天才マンはふっとお馴染みの笑みを浮かべると、少し待つように言われた。
無理矢理このまま帰ってもよかったが、律儀な努力は天才マンが戻るまで待つことにする。
暫くして、天才が手にコップのような物を持って帰ってきた。


「これで女になれ」
「はぁ?何故ですか?」
「男が足を挫いたくらいで手を借りるのはプライドが傷付く…ということにしてしまえばいい」


どうやら、やはり天才にはお見通しらしい。
そしてあえて違う理由で納得するように促してくれているのだ。


こういった些細な気遣いは、兄の勝利に似ていると思う。


努力は素直に水をかぶり女になると、再び差し出された手をとった。
と同時に、浮遊感が努力を襲う。
何事かと考える暇もなく、気が付いたら天才に横抱き…所謂お姫様抱っこをされていた。


「なっ!?天才マン!?」
「ふっ、気にすることはない」


お前を落としたりはしないと言われても、安心なんてできるわけがない。
いやそもそもそういった意味で名前を呼んだわけではない。
ぐるぐると言いたいことが言葉にならず、回っている努力を気にもしないで、天才はビクトリーマンションに向かった。


そして冒頭である。


大人しくなってしまった努力を、気付かれないように観察する天才。
身体が一回り小さくなり、女性らしく丸みを帯びた身体は確かに魅力的だった。
そしてこれはもとからだが、真っ直ぐな心と瞳を持っている。

なるほど、兄達が躍起になって守ろうとするのがよく分かる。

天才はまたふっと笑うと、あと少しの道程をゆっくりと歩いた。











end
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