聖闘士星矢2

□不意打ちのキス
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童虎と付き合うようになった。
その事実は今まで生きてきた中で最高に幸福であり、そして夢ではないのだと、アイオリアはそっと静かに息を吐く。
自分の腕を枕がわりに身を寄せて眠る恋人に、アイオリアは緩む口許を抑えきれない。
告白が成功するとは思っていなかった。
自分よりも遥かに歳上で、そしてアイオリアだけではなく多くの聖闘士の恩師である童虎は、この度の聖戦にて老いた姿から前聖戦の若かりし姿へと変貌した。
その容貌は自分よりもあまりに幼く、そして小柄であった。
焦げ茶の髪を方々に跳ねさせ、くりくりとした大きな瞳は若草色に輝きまるで宝石のようだ。
にこりと微笑むその表情、そして心地よい声。
全てにおいてアイオリアの心を掻き乱していく。
そのぷくりとした軟らかそうな唇に、己のそれを重ねられたらと幾度も想像しては叶わぬ願いだと頭を振った。
しかし叶わぬとも、伝えることもしないで諦めるのはアイオリアのポリシーに反するような気がして、当たって砕けろの精神で童虎に思いの丈を伝えたのだった。
そして返事が耳に届いたとき、不覚にも間抜けな顔をしてしまったことを覚えている。
アイオリアの告白を受け、そわりと瞳をアイオリアから外しながら、耳まで赤くなった童虎。
小さく自分もだと聞こえ、数秒硬直した後、その愛しい身体を抱き締めた。
こうして想いが繋がった二人は、平和な世界の中で幸せに生きている。
聖闘士として、いつ命が尽きるかは分からない。
だができるなら、この人と共に生涯を終えられたらと思わない日はなかった。
もぞり、と童虎が動く。
寝顔は更に幼く見え、なんとも愛おしい。
意外にも恥ずかしがりやの恋人は、人前でのスキンシップはもってのほか、二人きりであっても素直に応じてくれない時がある。
それすら可愛く見えてしまうのは、愛故か。


「んっ…」


小さく声が漏れる。
そして閉じていた瞼をゆっくりと開き、アイオリアの好きな若草色がぼんやりとアイオリアを映した。


「りあ?」
「起こしたか?」


甘えたような蕩けた声で呼ばれて、頬にかかった髪を払ってやりながら訊ねた。
二人きりの時は極力敬語を使わないというのが、二人の間の約束事である。
日はまだ昇ったばかりなので、まだ起きるには時間がある。
もう一度寝るかと聞けば、いや起きると目を擦って上半身を起こした。
ハラリとシーツが滑り落ち、アイオリアの大きすぎるTシャツ着た姿が現れる。
四つん這いでうんっと上半身を伸ばす姿は、宛ら猫のようだ。
そう言えば虎とライオンは猫科だったなと、どうでも良いことを頭に浮かべて自身も起きるために上半身を起こす。
寝間着のTシャツは童虎に貸してしまっているため、アイオリアの逞しい上半身がカーテンの隙間から漏れる光に淡く照らされる。
まるで彫刻のような美しさに、思わず見惚れているとその視線に気が付いた彼と目があった。
同じ男であっても格好いいなと惚けていると、ふいにその整った顔が近付いてきた。
そして触れる温もり。
自分よりも薄くかさついた唇は、童虎に安らぎを与えるには充分であった。
数秒してから離れた相手に物足りなさを感じて、小さく息をついた。


「おはよう、童虎」
「うむ、おはよう、リア」


改めて朝の挨拶を交わし、アイオリアはベッドを降りようと動く。
童虎は自分の唇に触れながら少し考えて、完全にベッドから出ていってしまう前にその逞しい首に腕を回す。
急なことに驚いて振り向こうとするアイオリアに、童虎は自ら口付けた。


「童虎?!」
「たまにはわしからしてやろうと思ってな」


悪戯が成功した子供のように笑う恋人。
恥ずかしがりやの彼からは数えるほどしかないそれに、アイオリアの心から愛しさが溢れ出すのを止められない。
ぎゅっとその自分よりも小さな身体を抱き締めて、再びベッドに逆戻りした。


「そんなことして、分かってるのか?」
「煩いのう、そういうことに決まってるじゃろ」


ぷいっと真っ赤に顔を染めてそっぽを向く童虎の言葉に、誰が我慢できるのだろうか。
日はまだ昇ったばかり。
もう少し位はベッドに沈んでいてもいいだろう。









end

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