混合

□Mi dispiace
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「ねぇねぇ、サガ兄ちゃん」
「ん?どうした、デスマスク」
「あのね、僕ね、これから教皇様の所に行くのー」
「そうかそうか、一人で行けるか?」
「うん、だからね、これ預かってて欲しいの」
「ああ、お前から預かった大切なものだ。キチンと私が保管しよう」
「うん、有り難う、サガ兄ちゃん!!」


そんな会話があったのが、数時間前。
あれほどまでに穏やかだった空気が一変して、双児宮ではまさに世界の終わりと言うほどに沈んでしまった主が一人。
部屋の片隅で鬱々としながら泣いていた。
それはもう、鬱陶しさを通り越して憐れに思うほどに落ち込んだ兄を、たまたま里帰りしたカノンが慰めてしまうほど。
しかし、どんなに慰めても浮上してこないサガに、もともと短気な弟は兄を蹴飛ばして隣宮の所に避難しに行った。


「んで、アイツはなんであんなに鬱陶しくなってんだよ」
「お前、理由も知らずに慰めてやったのか…」
「ふふ、何だかんだと仲が良いね君達」


呆れるシュラの隣で、アフロディーテがにこやかに笑う。
笑顔は美しいのに、どうしてか完全に見下している感が半端ない。
それに嘆息しながら、ムウがカノンに紅茶を出した。
因みにシャカも居るのだが、彼はアフロディーテが持ってきたお菓子に夢中なため会話に入ってこようとしない。
誰も説明しないので、アイオリアがカノンに事の事情を話すのであった。


「何でも、サガがデスマスクの大切にしていたクロスを壊してしまったそうだ」
「はぁ!?ちびの!?何やってんだよ愚兄が!!」
「全く、その通りだよね」


デスマスク、という単語でさえも聖闘士を動かすには充分な威力があるというのに、その愛されマスコット、デスマスクの大切なクロスを壊してしまったとあれば同情の余地などない。
アフロディーテもカノンに深く頷いた。


「あ、だからデスマスクはここに居ないのか?」
「ええ、その…デスマスクがかなり怒ってしまったようで、少し冷却期間が必要だということで今はシオンと一緒にアテナのいる日本に行っています」
「まぁ、大事なもん壊されたら怒る、よなぁ…」
「それだけでも大分ダメージが大きかったのですが…デスマスクに言われた一言がかなり効いているみたいですね」
「何言われたんだよ」
「『サガ兄ちゃんなんかだいっきらい!!』だってさ」
「なっ…!?」


ムウの話を聞いていたが、最後にアフロディーテが落とした爆弾の方が威力が大きかった。
あの、可愛らしく天使のような幼子に…大っ嫌いと言われるということは、まさに世界の終わり。
異常な過保護が多い中で群を抜いてデスマスクを可愛がっているサガが言われてしまったのなら、今生きているのが不思議なくらいショックなことであろう。
よくこの数時間生きていたものだと変に感心したが、そう言えば双児宮に残りの黄金が揃っていた事を思い出す。


「じゃぁアイオロス達は、見張りか」
「ああ、死んで詫びると言っては自殺しようとするサガを止めている」
「シュラなんか、介錯してくれって言われてたぞ」


げっそりとしているシュラに、アイオリアが苦笑する。
その光景がありありと想像できて、カノンはうえっと舌を出した。
しかし、これは本当に一大事だ。
今回はサガだったものの、もしも自分があの天使に大嫌いと言われてしまったら…
そう考えただけで恐ろしい。
それは他の仲間も同じのようで、瞳が真剣になる。
デスマスクの事になると、何よりも結束が固くなるのが聖闘士だ。
何だか間違っているような気がしないでもないが、やはりここには突っ込みは誰もいない。
どうすればいいのか分からずに、カノンは双児宮の兄に意識を向けた。








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