混合

□楽園はここにあり
1ページ/2ページ



冥界にあるエリュシオン。
そこは楽園でとても美しい場所であった。
冥界の王であるハーデスは勿論、彼の側近であるタナトスとヒュプノスの双子神がいる場所である。
そんな場所に、最近聞き慣れた幼い笑い声が響いていた。


「なぁ、ヒュプノスよ」
「何だ、タナトス」


ぼうっと、主の背中を眺めながらタナトスがヒュプノスに呼び掛ける。
そんな彼の前に、淹れたての紅茶を置いてやりながらヒュプノスはタナトスを見た。


「ハーデス様は変わられたな」


それを聞いて、タナトスの視線の先に視界を移す。
少し先の花畑で、優しく目を細める冥王。
冥王の前には、くるんとした癖毛が特徴の可愛らしい幼子が楽しそうに花冠を作っていた。


「そうだな…前まではあんな顔などされなかった」
「不思議な奴だな、あのデスマスクという奴は」


先の聖戦で、気の遠くなるほど続いていた戦いを終わらせた黄金聖闘士。
まさかこんな子供がと疑ったが、アテナは元よりハーデスや沢山の大人を魅了していると聞く。
信じることはそう容易くできないが、こうも主君のだらしない顔を見ていると信じざる終えないのだ。
黄金聖闘士というだけでも驚きなのだが…


「俺には分からんな…ただのガキだろ?」
「まぁ、ちょっと特殊なただの子供だとは思うが」


あまり子供が好きではないタナトスは、怪訝な表情を見せる。
ヒュプノスといえば、ただじっと二人を眺めているだけであった。
そこに、パンドラがエリュシオンに現れた。
急ぎの用なのか、足早にハーデスに近づく。
何事かと思い、二神も腰を上げて足を向けた。


「お楽しみのところ申し訳ございません、早急にハーデス様に確認していただきたい件がありまして」
「そうか…デスマスクよ、少し待てるか?」
「うん、僕大丈夫だよ〜。ハーデス様もパンドラさんもお仕事頑張ってね」


可愛らしく幼子にそんなことを言われてしまえば、ハーデスとパンドラは俄然仕事にやる気が出るというもの。
よしよしと頭を撫でながら、ハーデスはタナトスとヒュプノスにデスマスクの遊び相手になるようにと残し、パンドラを連れたってエリュシオンを離れていった。
残された二神と子供が一人。
子守りを押し付けられたタナトスはむすりとしていたが、ヒュプノスはこれはいい機会だと、しゃがみこんでデスマスクに話しかけた。


「直ぐ戻ってこられると思うが、それまでは我々が遊んでやろう」
「なっ!?ヒュプノス!?」
「わーい、ヒュプノス様、タナトス様、グラッツェ!!」


子守りなど御免被りたいのに、双子の兄弟がそれを邪魔をする。
そんなことは、ニンフにでも押し付ければいい。
信じられないと目で訴えてくるも、ヒュプノスはそれを綺麗に無視をしてデスマスクを見た。
単純に、この幼子に興味があったのだ。
ハーデスだけではなく、他の神々をも魅了するこの幼子に。
まさに絶好の機会だと、ヒュプノスは心の中でほくそ笑む。
もしも危険だと感じれば消してしまえばいいのだ。
理由などいくらでも作ることはできる。


「そういえば、先程はハーデス様と何を作っていたのだ?」
「えっとね、お花の冠なのー」


ほらと差し出されたものを見て、ハーデスの頭や首にも花の冠や首飾りがあったことを思い出す。
冥界の王だというのになかなか癒される姿に成り果てていたなと、ヒュプノスは口には出さなかったがタナトスを見た。
彼も同じことを考えていたようで、呆れたような顔。


「それも、ハーデス様に渡すのか?」
「ううん、これはヒュプノス様のだよー」


はいこれどうぞと渡されたものを、ヒュプノスは目を瞬かせながら見つめた。
美しく咲き誇るエリュシオンの花冠。
デスマスクを見ると、ニコニコと愛らしい笑みを向けている。
その瞬間、ヒュプノスは理解した。
幼子の持つ、不思議な力に。
理解したとたん、ヒュプノスは他の大人達と同じようなだらしない笑みを浮かべる。
その笑みを見て、タナトスがギョッと身を引いた。


「そうかそうか、私のために作ってくれたのか」
「そうなの〜。エリュシオンのお花綺麗だからね、ヒュプノス様とタナトス様にあげたかったの」


えへへと笑うデスマスクに、ヒュプノスは感極まって抱き締めた。
何この可愛い生き物!!
頬擦りしながら有り難うと感謝するヒュプノスに、デスマスクはヒュプノスに渡した花冠を受け取りその金に輝く髪に乗せた。


「ヒュプノス様、ベッロだねぇ」
「お前はいい子だなぁ、デスマスク」


デレッデレの片割れに、タナトスは戦慄を覚えた。
こんなヒュプノス見たことがないっ!!
ベッロ(美男)なんてニンフ達にも言われまくってあるだろうが!!
あっさり攻略されてしまった片割れに、タナトスは自分だけでもと意思を固くして二人を見つめる。
デレッデレの顔が気持ち悪い。
ふと、ヒュプノスに抱っこされたデスマスクと目があった。
何だやるのかコノヤローと身構えたが、ふにゃりと笑った幼子に脱力する。
いくら黄金聖闘士といってもただの子供。
何を警戒しているのかと息をついたとき、デスマスクがタナトスを呼ぶ。


「な、何だ?」
「あのねー、タナトス様のもあるのぉ」


はいどうぞと渡された花冠を、勢いで受け取ってしまう。
どうしたらいいのかと戸惑っていると、ヒュプノスが視線で早く頭に乗せろと圧力をかけてきた。
ヒュプノスを怒らせると後が怖いので、大人しく花冠をつける。


「わぁ、タナトス様もベッロだねぇ」


キャッキャッと喜ぶ幼子。
その姿を見て、タナトスの警戒の壁が崩れ去る音がした。








.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ