聖闘士星矢2

□いつものこと
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テンマは空を仰ぎ見た。
快晴がどこまでも続き、心を洗い流してくれるようだ。
白い雲が青空のキャンパスに様々な模様を描いている。
ああ、あの雲は猫に似ている。
その隣はサーシャが分けてくれたクッキーのようだ。
そんな穏やかな思考を遮るように、大きな声が聞こえてくる。
一気に現実に引き寄せられて、テンマは心の中で盛大に嘆息した。


「貴様!!!いい加減邪魔をするな!!!」
「ふんっ、邪魔などしておらん。貴様が邪魔だ」


がなり合うのは冥闘士。
ベヌウの輝火にバジリスクのシルフィードである。
場違いな二人に口論なら冥界でやれよと思うが、どうせ言ったとしてもテンマの声など二人には届かない。
では何故この二人が地上、はたまた聖域近くにて口論しているのかと言うと、原因は現在輝火に片腕で担がれているテンマの姉貴分の童虎にあった。
と言っても、彼女が悪いわけではない。
ただそこにいるだけだったのだからテンマが童虎を責めることはできないし、するつもりもない。
オロオロとしている童虎に、テンマは慣れたように一人で修行の続きをしようと決めた。
冷たいと言うことなかれ。
これが数回であれば勿論テンマとて二人を止めようと間に入った。
しかしその度に引っ込んでいろと吹っ飛ばされ、はたまたもしや貴様もかと敵視されたこともある。
つまりはくそ重たい恋愛感情を童虎に一心に傾けている男達の痴情の縺れであるから、テンマがどうこうできるわけがなかった。
テンマとて童虎を姉貴分、師と仰ぐことはあっても、その感情が恋愛かと問われるとNOである。
童虎には悪いが関わらない事が最善だと気づいた頃には、テンマは全てを悟ったような表情で黙々と一人で修行した。
そんな弟分を恨めしそうに睨んでも、この状態が変わるはずもない。
童虎は輝火に担がれながら盛大に肺から息を押し出した。
先程からバジリスクの毒のせいか、手先の感覚がピリピリとしている。
その指を弄びながら、童虎はチラリと二人を見た。


「童虎は俺の将来の嫁だ!ラダマンティス様からもご許可をいただいてるんだぞ!」
「ふんっ、ラダマンティスからの許可があったとて、当人の了承が無ければ無効だろう」
「ハーデス様とペルセポネ様の例があるだろう!」
「貴様!ハーデス様に謝れ!!」


もはや何で口論しているのか分からなくなってきた。
自分の意思を無視して口論する輝火とシルフィード。
自分を見捨て、少し離れた場所で一人修行をし始めたテンマ。
現状を整理していると、だんだんと怒りのようなものが込み上げてくる。
それが沸点を越えると、とうとう童虎が爆発した。
激しく小宇宙を燃やしたかと思うと、廬山百龍覇を放ち三人の男共を吹っ飛ばす。


「いい加減にせんかお主ら!!!」


怒れる猛虎の前に、所々怪我をした男三人が正座させられる。
ぷりぷり怒る童虎も可愛いなぁと説教を右から左へ流す二人とは別に、テンマは何故俺も…と理不尽を感じていた。
完全に巻き込まれたテンマに気付かずに人の気持ちを考えろと説く童虎に、思わずぽろっと心の声が漏れた。


「じゃぁもう、童虎がどっちか選べばいいんじゃないか?」
「ほ?」


テンマの言葉に怒りを忘れて呆ける童虎と、その手があったかと今更ながらに気が付く男共。
瞬間、あ、これ余計なこと言ったかもとテンマはひきつった笑みを見せた。


「そうだな、童虎よ選んでくれ!俺か、それともこのベヌウか!」
「え?いや、その、選ぶとかそういうんじゃなくての…」
「潔く腹をくくれ」
「て、テンマ!どうにかせい!」
「いや、悪ぃ童虎。俺にはもう無理」


助けを求める瞳に、テンマは降参と言いたげに両手を挙げて首を左右に激しく振った。
激しく振ったことにより若干気分が悪くなったが、捲き込まれるよりか遥かにましだ。
さぁどちらを選ぶのだと迫るシルフィードと、何も言わないが凄んで童虎を見下ろしている輝火。
怖い、この上なく怖い。
半泣き状態になりながら打開策を考えていると、恐ろしいまでの強大な小宇宙がその場にいた四人を圧迫した。
見に覚えのある小宇宙に、輝火とシルフィードの背中に冷や汗が流れる。
テンマはテンマでお決まりのパターン乙と、メタ発言を脳内でしながら元凶を見ていた。
ふわりと重力を感じさせない長い後ろ髪を靡かせて、その元凶、アローンはニコニコと人好きする笑みを浮かべている。


「は、ハーデス様…」
「いかがされましたか?!」
「うん、サーシャとテンマに会いに来たんだ」


息抜きも大切だよねと、アローンはテンマを振り返り同意を求める。
現在、聖域も冥界も人手が足りずてんやわんやとしており、その双方を治める神であるアテナとハーデスは忙しくしているのを当然この場にいる者は知っていた。
しかし、だからと言って単独である意味敵地に向かうなどあってはならないことである。
せめて護衛をつけてくださいと申し出る輝火に、アローンは優しく微笑んだ。


「だって、輝火いなかったし。皆忙しそうだしね。シルフィードもこっちにいるみたいだからついでにこのまま護衛してもらおうかなって思って」


優しい口調、優しい笑顔。
しかしその裏に見え隠れしているトゲに気付かないほど鈍感ではない。
申し訳ございませんでしたと深く頭を下げる部下に、アローンはただただ笑みを浮かべるだけだった。
そんなアローンを眺めながら、昔より性根逞しくなったなぁと遠い目をしているテンマに、童虎が後ろからぽかりっと頭を叩いた。


「いって!何すんだよ童虎!」
「バカタレ!お主が変なことを言うからおかしなことになりかけたんじゃろうが!」


これで許してもらえるのだから有り難いと思えと、やはりぷりぷりと怒っている童虎。
痛む頭を抑えながら、テンマは今後はカノン島の鬼に師事を受けよう心に決めたのであった。










おわり

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