ラッキーマン

□恋というのは
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自分の兄である勝利は、大人だと思う。
地球人の姿を借りると、外見こそ中学生ではあるが。

例えば、タバコを吹かす仕草とか。

例えば、闘いにおける知識とか。

例えば、…恋愛だったりとか…

大人を感じさせるそのひとつひとつに、努力はたまらなくなる。


実の兄と、まさか恋仲になるなんて誰が予想できただろうか。
幼い頃から、誰よりも近く守ってくれていた背中。
勿論友情も、勝利と同じくらいに自分を守り、愛し育ててくれたが、勝利は特別だった。
産まれたばかりの頃に両親を亡くし、父親というものがよく分からなかったが、きっと他の人にとっての父親像というのは、自分にとっての勝利なんだろうと思う。
勝利とて、父親代わりになろうとしていたのかもしれない。
まぁそれが沢山の事が巡り巡って、今の関係に収まったのだが。

だが、根本的には兄弟なのだ。

先に勝利が産まれ、次に友情が産まれ、そして努力が産まれた。

この埋めることのできない時間が、自分たちを隔てているような気がして。
泣きたくなる。


そして更に、差を見せつけられているように感じさせられるのは、彼があまりにも努力を子供扱いするため。
先日だって、まるで子供を褒めるみたいに、昔の幼い頃と同じように頭を撫でられた。
嫌いではない、むしろ懐かしく大好きなその掌は気持ちよかった。
弟で、更には年の差があるのだから仕方ないのは理解しているのだけども。
彼の隣にはずっと立てないような気がして。


「どうした、努力」


ほら今だって。
心配してくる瞳は、幼子に向けるのと同じだ。
何でもないと首を振るが、全てを見透かしているような瞳で見つめられると、黙っていることなどできなかった。


「兄さん、兄さんにとって私はまだ子供ですか?」
「あ?」


そう言うと、勝利は不思議そうに努力を見た。
まるで何を今更と言われているような気がする。
だが、出てしまった言葉をなかったことにできるほど器用ではない。
努力は黙ったままの勝利を見つめた。


「なんだ、子供扱いするなってか?」
「…そんなんじゃないんですが…」


何と言えばいいのか分からない。
この心の疼きを言葉で説明できるほど、努力は大人ではなかった。


「まぁお前、弟だしな」
「それはそうなんですが、その、私達は…あの…」


恋仲ではないのだろうか。
恋人として、扱ってほしい気持ちはある。
だが同時に、弟としても思ってほしい。

なんて欲張りなんだろう。

自分は勝利の何よりも特別になりたいのだ。

なんて愚かで、我儘で、自分勝手な感情。

こんなのだから、子供扱いされるのだ。
こんなこと伝えてしまったら、きっと呆れられる。
面倒臭いやつだと、捨てられてしまうかもしれない。

言葉の続き出てこず、ただひたすら俯いてしまった努力に、勝利はそっと距離を縮めると顎をつかんで上を向かせた。
真っ赤な焔の瞳が勝利を映す。
何事かと戸惑っていると、唇に柔らかい少しかさついた感触。
口付けられているのだと気付いたのは、歯列を割られ、舌で口内を犯された時だった。


「んんっ!?ふぁ…」


驚いて逃げようとするが、右手で後頭部を固定され、反対の手で腰を捕まれ。
逃げることなどできなかった。
だんだん酸素が不足し、思考に霧がかかってくる。
勝利を押し退けようと、彼の胸を叩いていた両手は、力無くすがるように服を掴んでいる。
とうとう体の力が完全に抜け、自分一人で立てなくなるとようやく勝利は唇を離した。


「ふぁ…はぁ…」


二人の間に、銀色の糸が引かれる。
虚ろに勝利を見上げると、口の端を引き上げニヤリと笑みを見せている。


「ガキ相手に、こんなことしないぜ?」


年の離れた弟だから子供扱いし、恋人だから求める。


「俺はな、欲張りなんだ」

兄でも恋人でもいたいんだ。
耳元でそう囁かれ、そしてきつく抱き締められた。


ああ、なんだ…そうなんだ。


先に産まれたから、大人だからだとか関係無い。

恋と言うのは、我儘で自分勝手で。


どうしようもない、単純な感情。











end






あとがき
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