四、駄文A

□笹鳴き
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情事の後、気だるくベッドの上に、躰を投げていると、男が、寝室に入ってきた。
バスタオルを腰に巻き、シャワーを浴びた後で、髪がまだ濡れている。
まだ、腰が立たないし、両頬もヒリヒリと痛んだ。殴られ、強姦同様に力付くで抱かれ、現在付き合っている恋人、森本久憲(もりもと ひさのり)を見つめた。

「なんだ。まだ、そんな格好でいるのか」

「…腰が立たなくて」

石井貴斗(いしい たかと)は、そう文句を云うと森本はベッドに腰を下ろす。貴斗の顔を自分の方に向け、唇を落とした。
貴斗も抵抗せず、森本の舌を口腔に招き入れた。

「誘っているのか?」

触れる寸前までしか、顔を上げず、森本は云う。

「お前の躰は、淫乱だからな。」

目で威嚇するが、森本は口の端を、上げただけの笑みを作った。
ベッドには、行為跡が残っており、シーツはぐちゃぐちゃだ。
森本は、唇を再び落とすと、左手で貴斗のモノに触れた。キスをしながら、笑ったように感じた。みるみるうちに、硬くなり立ち上がるソレに、貴斗は心の中で、自嘲の笑みを浮かべた。
いつからか、こんな変な関係になってしまった。森本は、貴斗を人形のように抱き、気に入らなければ殴る。まるで、性欲処理の道具だ。
再び、攻められ頭さえも、起き上がれない状態にされてしまった。
ネクタイを締め、服装を正すと今度は、貴斗を見ずに部屋を出て行った。

(いつまで、こんな生活が続くんだろ…)

目が重くなり、少し眠ろうと思い、目を閉じた。





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目を覚ましたとき、時計を見ると針は、午前11時を指していた。今起きれば、高校の午後の授業には顔を出せそうだ。
まだ、重く軋む躰に鞭を打ち、シャワーを使う。
この部屋は、森本の借りているマンションで、彼らは一緒に住んでいた。
貴斗の両親は、別々に仕事で各地を飛び回り、仕事に生きているような人たちだった。
高校生までにも、なってみれば、親を恋しがる年ではなかった。
そのために森本との同居は殆ど、なし崩し状態だった。
浴室から出て、寝室のカーテンを開ける。
眩しい日の光に、反射的に目を細め、今日も良い天気だ…などと、感慨に更ける。
制服に身を包むと、行く気すらないが、この憂うつとした気分を変えるには、十分だった。ひとつ溜め息をつき、部屋を出た。
学校に着き、教室に入る。1時前で、今まさに昼休みから授業に移ろうとしていた。
自分の席に座る。早速、声を掛けてきたのは、同じクラスの高原だった。

「石井、重役出勤だな!」

笑いながら近づき、貴斗の前のイスに貴斗と向き合うように座った。貴斗より、頭一個分身長が高い。高原とは、中学から一緒だから、親しい関係といえるだろう。

「まぁ…そんなとこ」

少し、語尾を濁ませながら、貴斗は話を変えた。

「次は誰?」

「山崎だよ、古文の」

「あぁ」と、思い出してみる。その山崎はかなりしつこく、答えるまで立たせておくという授業をしていた。貴斗の苦手な教員だった。
貴斗は、立ち上がり教室を出た。

「ばいばーい、と。」

貴斗の背中に手を振り、少し寂し気な笑みを、高原が、浮かべたことに貴斗は気づかなかった。
耽る場所といえば、定番の保健室に足を向け、中に入る。
保健医が不在らしく、室内には誰も居なかった。遠慮なく、ベッドのカーテンを開け、ベッドに倒れ込んだ。
朝寝ていても、やはり躰は、惰眠を貪り足りないらしく、また睡魔が襲ってきた。そのまま眠った。
眠ってから、カーテンが開く音と男の声がした。

「誰だ、寝ているのは…」

呆れ半分の口調。
目を開ける気にならず、そのまま寝ていたら、布団をかけてくれた。律儀過ぎるが、その律儀さに甘えさせてもらった。



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