Gift
□ルージュ
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久々に戦闘がなかったある日の午後、エターナル艦内での出来事だった。
ルージュ。
「―――キラ!」
フリーダムの整備を終えて自室へ戻ろうとしていたキラは、背後からの唐突な声に足を止めた。
呼び止めたのはアスランだった。
勢いよく駆け寄ってきた彼は、キラが完全に振り返る前にその背に縋りつく。
「か、匿ってくれっ!」
いつになく必死な声で訴える彼の表情は、俯いているせいで確認できない。
珍しく取り乱しているその様子に、キラは目を丸くした。
「……どうしたの?」
困惑気味に訊きながらも、キラはとりあえず部屋の扉を開け、アスランに入るよう促す。
まるで顔を隠すように深く俯いたまま室内へ滑り込み、ベッドに腰を下ろした彼を見届けて、一体何事なのかと改め
て問おうとした、まさにその時。
「あ!……キラッ!!」
今度は遠くから、自分を呼ぶ自称・姉の声が近付いてきた。
それにアスランがびくりと肩を震わせる。
―――どうやら、ここで鉢合わせるのはまずいらしい。
とっさにそう判断したキラは、アスランを室内に残したまま、自分だけもう一度部屋を出て扉を閉めた。
すぐにその姿を見つけたカガリが駆け寄ってくる。
「キラ!……お前、アスラン見なかったか!?」
「アスラン? さあ、見てないけど?」
しれっとキラが言い放つと、カガリはあからさまに落胆の表情を浮かべた。
キラは首を傾げてみせる。
「何? 何か用事でもあったの?」
え、となぜか硬直してしまったカガリは、一瞬ののちに、今度はおろおろと視線を泳がせる。
「いや、その、別に用事ってほどのことでも、ないんだが……」
「ふーん?」
今にも裏返りそうなカガリの声は、明らかに何かを隠しているようだった。
だが、キラはあえて追求せず、気付いていないふりをする。
するとそこへ、さらなる来訪者が。
「―――あら、キラ。カガリさんも、こちらにいらしたのですね」
穏やかな笑顔で現れたのは、この艦の主、ピンクの歌姫ことラクス・クラインだった。
なんだか今日は千客万来だな、とか思いながら、キラは彼女に向き直る。
「やあ、ラクス」
「こんにちは。……ここにおられるという事は、もうフリーダムの整備は終えられたのですね」
「うん」
「お疲れ様ですわ」
ふんわりとした笑みを浮かべてキラに労いの言葉をかけたラクスは、すぐに視線を傍らのカガリへと転じる。