LOST CANVASの章

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標高6000m超える魔境の地―――ジャミール
ヒマラヤ山脈の中にひっそりと佇む小さな集落である
山の民チベット族でさえ近づく事を恐れる地に暮らすのは、古より続く血を受け継ぐジャミールの一族だった

彼―――シオンもその血を受け継ぐ者の1人である

彼は一族の中で数少ない子供であったが、幼いながらにしてその潜在能力は目を見張るものがあった
物心付いた頃から小宇宙の扱いを学んできた彼は慣れたように心の宇宙を通じて、周囲を探る
感じるのは、幾つもの見知った小宇宙
その内の一つの小宇宙を一際感じながら、それを持つ方角へと彼は小走りに走り出した
そして、数分もしない内に集落を隠すような白い霧が晴れた先に見えたのは、小さな背中

「ハクッ!!」

「シオン」

常夜のような黒い髪が揺れ、幼い少女の顔が向けられる
彼女は彼の登場に少しだけ瞳を見開いた後、嬉しそうにシオンの名を呼んだ

「一人で出歩いたら危ないだろ!」

「大丈夫だよ。シオンは心配症だなぁ」

一人で行ったことよりも、自分を置いていったことに対する不満を隠しながらシオンは言う
だが、それをお見通しのようにハクはいつもの屈託のない笑顔を浮かべたままだった



「さぁ、行こう」



そして、楽しげに歩きだした少女
少年はそれに気付くと、小走りに横に並び慣れた道なき道を進んでいった













集落からそれほど遠くない場所
森林地帯と平原が混じった標高には、人気は感じられない
ハクとシオンは、ある森林地帯へと入ると探し物をするように周囲を模索した


「何処だろー?」

「ハク!上だ!」


余りにも探し物が見つからないことにハクが首を傾げていれば、シオンの大声が届く
言葉通り、上空を仰ぐとハクの瞳に写ったのは、青空に浮かぶ太陽が何かの影に遮られた光景
そして聞こえたのは猫にも似た獣の鳴き声

その影は、白い豹だった


「ぎゃっ!!」


突然、豹が頭上から降ってきたためハクは豹に押し倒される形で地面に倒れた
だがハクは、まだ小さいとは言え豹である獣に襲われているのに慌てることもなく、むしろ嬉しげに白い豹を抱き上げる
その様子にシオンは呆れたように溜息を吐き、ハクの側に屈んだ


「ユキは、相変わらず無邪気だねー」

「ハクの悪影響だろう」

「悪影響って失礼な!シオンの影響を受けた方が悪影響だよ」


二人の良い争いにハクの腕に抱かれたユキは、灰黄色の瞳孔でその光景を見つめていた
一時は大人しくしていたユキだったが、獣のユキには二人のやり取りを理解出来るわけはなく、もがく様にハクの元から離れ、一つ鳴く
その鳴き声で二人は言い合いを忘れ、元気に駆け回る白い豹を追いかけるように森林地帯を駆け抜けた




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