LOST CANVASの章

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あの出来事は、二人の間に溝を創り、時間が経つにつれて大きくなっていた
もはや、子供の可愛い喧嘩と言えないそれは、二人が分かち合うことを許さないとばかりに間に見えない壁となって立ちはだかった


「いいのかい、ハク」


窓から外を眺めていると、声が掛かり、それがどういう意味か察したが気付かないふりをした

「もう明日だよ?」

祖母が言う期限
それは、シオンが正式にハクレイの弟子となり此処から旅立つ日
つまり、明日で2週間もの時間、二人は会っていないこととなる 
もし、それまでに仲直りできなければ、二人の溝は埋まらなくなるだろう


「いいんだ」


椅子から降りると、ハクは外へと出るために扉に向かった


「行ってきます」


もう、決めたんだ







家の扉を閉め、ハクは少し立ち止まり、ある方向を見る
先ほども見ていた景色
そこにあるのは、シオンの家
あれ以来ハクは、こうやって離れた場所からシオンの家を見つめていた
けれど、それを知っているかのようにシオンの姿は、ハクの景色の中に現れることはなかった


「………」


その顔に表情を浮かべることなく、ハクは村の外へ向かって駆け出した


「はぁ、はぁ…」


少し肌寒い空間に、ハクの息使いが響く
我武者羅に走り続けていると、見慣れた光景が目前に広がり、ハクを包み込む
それに安心するようにハクの足取りは、ゆっくりと落ち着いていった


「ニャー」


猫に似た鳴き声がハクの呼吸音を消すように届くと、ハクは小さな笑みを浮かべた


「ユキ」


歩み寄ってきた白い獣
その丸い視線に合わせるために屈むと、ハクはその頭を撫でた


「今日もシオンは…居ないんだ」


いつも一緒に現れる少年が居ないことを訴えるように鳴くユキに悲しくなった


「もしかしたら、もう此処には」


それ以上は続けれず、ハクは天を見上げた
其処には夏の面影はなく、冬を運んでくる秋空が広がっている



約束したけど



急に冷え込んできている空気
その空気がハクの腰を持ち上げた


「ユキ、下に降りるよ」




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