原初の章
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何日経ったのだろう
元々、与えられた部屋からはもちろん、ハクが居る冥界には太陽が見えないため、わかるはずがなかった
それを不便に感じるわけではなかったが、いつも太陽が昇り、沈むことで一日が経ったことを把握することは、数少ない暇つぶしだった
「なんで、太陽が見えないの?」
「外をずっと見ていると思えば、そんなことか」
数日目にして、漸くハクが初めて自分から話しかけてきたのが“太陽”だった
冥界なのだから太陽が見えないのは当たり前だったが、思えば彼女は冥界がどういう所かはもちろん、自分がその冥界にいることもわかっていないのかもしれない
そう思考が辿り着く中で、やはりとばかりに少女は言う
「いつも太陽と月を見てたのに、此処からは見えないから…」
「此処は冥界だ。謂わば死後の世界。死者が罰せられる場所であり、太陽の光が届くような生温かい世界ではないのだ」
ヒュプノスの説明に窓辺の近くに佇んだまま居たが、次には納得したように頷いた
「生前に罪を犯した人は、冥王ハーデスが治める冥界にてその罪を償えるまで罰を受けるんだよね」
「知っていたのか?」
「忘れないように言われてたから。私は死んだら冥界で罰せられるって」
連れて来た時の身体の状態から少女が他の人間に酷い扱いを受けていたことは容易に想像出来ていた
けれど、そのようなことを言われるのは、その髪と瞳でか、それとも―――
「呪われた子とでも称されていたか?」
「うん。ヒュプノス様にも、私はそう見えるの?」
「人間とは、自身と違う者を忌むものよ。そして、災厄を全てその者が招いたと信じ、蔑む者だからな。そう考えついたまでだ」
哀れなものだ
あれ程見ていてつまらないものはない
そして、蔑まれる者は決まって殺されるか、憎むもの
「ハクは、憎くはないのか?自分を少し違うだけで、蔑んだ者達を」
ハクは考えるように視線を上へとやった
中々応えない様子から、平然を装う少女も憎しみを抱いていたのかとヒュプノスは思う
「わからない。でも、憎んでいたのかな」
揺るがない瞳がヒュプノスを映したまま続ける
「だから、殺したのかも」
悠然に綴られた言葉が、静寂に流れた