LOST CANVASの章

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地下書庫に入った処罰として、ハクは当分立ち入りを禁止されることとなった

当然の処置に納得もしていたし、何よりもあの異変を深く追求されることを避けたかったハクは反論することなく従った


けれど、1人になる度に頭に棲みつく夢を思い描いては、浸った



“ ハク ”



あの声が、あの瞳が、あの仕草が


胸を焦がし、苦しい



忘れることを許さないと訴えているのか、夢の男はハクの思考を占領していた

なのに、一向に光明が見えるはずはなく、ただ辛い想いをさせるばかり


「何処か痛いの?ハクお姉ちゃん」

「え?」

「辛そうな顔してる」


想いを馳せていると幼い声が届く

眠っていたはずのアトラが目を擦りながら立っていた

起きてしまったらしく、まだ眠たげな瞳でハクを見つめていた


「大丈夫だよ。ちょっと考え事をしていただけ」

「シオンのこと?」


藤色の髪を優しく撫でてあげていると、聞こえた言葉にハクは小さく笑う

片手の指で事足りる程の歳だったが、アトラはハクにとってシオンという存在が大事なことを理解していた

だから、哀しい表情をしているのは、シオンという人物に会えないからだと思っていた


「シオンに会いたい?」

「…そうだね。会いたいよ。でも今はアトラが居てくれるから私は平気。さぁ、まだ眠いでしょ?ベッドに戻ろうか」


幼いながら気遣いのできるアトラを安心させるために笑顔を向ける

そしてアトラの小さな体を抱き上げてベッドに連れていけば、可愛らしい手がハクの袖を掴んだ


「本読んでくれる?」

「もちろん」


ハクは近くに置いてあった読みかけの童話の本を手に取ると、アトラに話を聞かせる

そうしている内に、ふとあの夢の光景を重ねてしまう



あの人も、こういう気持ちで私に本を読んだのだろうか?



例の本―――地下書庫に今も眠っているであろう書を調べれば、もしかしたらあの夢のことがわかるかもしれない

そう何度も考えたが、それを実行することはきっとない

知らないはずの文字を読めた事実

それを隠しておきたかった、いや、隠しておかなければいけないような気がした


もしも、そうしなければ



「おやすみ、アトラ」



吐息を立てる可愛い弟も、穏やかな日常も、友を待つ日々も




全部が




崩れる予感がした


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