LOST CANVASの章

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ハクは身動きが取れないでいた

精悍な顔立ちをした人が目の前に立ち、無言でハクを見下ろしていたからだ

まだ聖域に来たばかりのハクは、名前はもちろん顔も見たことがない人にどうするべきかと悩んでいた

相手も見たことのない姿が現れたことに驚いているのか次の行動を取れずにいた


「お菓子を貰って来たんだが疲れただろ?ハクも…エルシドじゃないか。任務から帰っていたのか?」

「シジフォス―――!ああ先程帰った所で、貴方がジャミールから帰っていると聞いて訪ねたのだが…」


男の背後にある入口から現れたのは、この宮の主であるシジフォスその人であった

気まずい雰囲気の中に居た二人は、その登場に胸を撫で下ろす


「その子はハクと言ってね、今回ジャミールから書物の修復も兼ねて来てもらったんだ」

「ハクです。これからしばらくお世話になります」

「俺は、山羊座のエルシドと言う。宜しく頼む」


先程の空気を振り払うようにお互い挨拶を交わし終わると、シジフォスは近くの机に持っていたお菓子を置いた


「せっかくだ、エルシドも一緒に休憩しよう。ハク、お茶を淹れて来てくれるか?」

「うん!」


お菓子の登場に目を輝かせていたハクは、急いで部屋から出て行った


「…そういえば、マニゴルドが言っていた子供もハクと言わなかったか?」

「ああ、その事だが彼女の前では言わない方がいいぞ。マニゴルドの所に走って行ってしまうだろうから」


対峙していた少女は幼さがまだ残っているが、12歳には見えなかった

苦笑い混じりで言うシジフォスの言葉にエルシドは大方を察した


「楽しそうだな、シジフォス」

「そうか?」

「ああ」


共に同じ任務に付いている彼の言葉に、ジャミールでの生活を思い起こす

子供のように無邪気で危なっかしくて、時に大人な一面を見せる彼女

その存在のおかげで、調査をしている毎日が楽しいものだった


「そうだな。これからエルシドも楽しくなるさ」

「シジフォス、お茶持って来たよ!」


柔らかく微笑む射手座の言葉を合図のように、部屋に若々しい声が響く


「ありがとう、ハク。さぁ、座ろうか」

「エルシド様も、どうぞ」


着々と部屋の椅子に腰を下ろすハクだったが、立ったままでいるエルシドに隣の椅子に招く

与えられたお菓子に早く手を伸ばしたいのか彼女の生き生きとした表情



強ちマニゴルドの言葉は間違っていないのかもしれない



そう心の中だけで思って、エルシドは席に着くのだった



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