LOST CANVASの章
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この間と変わらず寂寞な空間に存在する一つの小宇宙
位置から考えて奥には居ないようで、出会った時と同じように宮の主は座禅をしていることを予想した
今日は会えそう
あれ以来この宮を通る時はもちろん、彼のことを考えることが多かった
けれど彼は宮から出ることはなく、部屋の奥に居ることが多くて、ハクは会えずに居た
それがようやく会えるのだ
何度も気落ちしていたためか、ハクの心は高鳴っていた
自身の歩む音を耳にしながら、彼が居る場所に近付いて行くと、あの時の姿が次第に輪郭をはっきりさせていく
同時にハクの動悸は速さを増す
「失礼します、乙女座さん」
お辞儀する相手は、微動だにしなかったがそれでもハクは、その姿を見られただけで嬉しかった
「君か。今日も道を聞きに来たのかね?」
「いえ。この間のお礼をしたくて…」
ハクは手に抱えていた物を彼に供えるように目前に置いた
「お菓子?」
「シジフォスから貰って美味しかったんです…嫌いですか?お菓子」
「いや…少し驚いただけだ。ありがたく貰っておこう」
人と余り関わりあいをもたない乙女座は、ハクの行為が予想外であった
少なくとも聖域に居ながら異色の宗派である彼を大半の者は訝しみ、進んで近づこうとはしなかった
「君は、変わっていると言われないかね?」
変わっているようなことをしただろうか?
ハクは乙女座の所に来てからの行いを思いだしたが、別段変ったような行動はしたとは思わなかった
「…偶に言われますけど、乙女座さんにも変に見えますか?」
「私にこのようなことをするのは君が初めてだったからだ。シジフォスから聞いているだろうが、私は異国の宗派を行っている。元より私が必要以上に近づけさせないのもあるが、わざわざ私の傍に来る者は居ないのだよ」
確かにシジフォスやマニゴルドらから聞いてはいた
異国の宗派はもちろん、乙女座は変わり者だと
けれど、異国の宗派―――仏教のことを少なからず知っていたのもあり、ハクには何ら抵抗はなかった
何より、親切に道を教えてくれた相手を毛嫌う理由などあるはずがない
「近づけさせない?」
「人の欲が必要以上に見えてしまうからよ」
表情は変わることがないのに、そう口にする彼が物寂しげに映った
それを見るとハクの気持ちも侘びしくなっていくようだった