LOST CANVASの章
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自身の腕の中に包み込まれた存在の全てが鍵のように、胸にしまい込む感情が溢れようとする
シオンにとっての聖衣に見せられたモノが起こり得ない全ての確証とも言うべきものだった
それには何ら偽りなどなくて、この想いを言葉にして伝えたいと声が出そうになるが、錠を掛けた理由がシオンの口を噤ませる
「シオン…?」
伝えることを諦めるためにシオンはハクを包む腕の力を解き、彼女の身体を自分から離れさすために、その腕を下ろさせる
拒絶されたことにハクは悲しげにシオンを見上げ、それにシオンも辛そうに眉を顰めた
出来ることなら、シオンも彼女の存在を確かめていたかった
けれど、これ以上ハクの温もりを抱きしめていれば、言葉が零れてしまいそうで…
何よりも彼女が悲しげな表情をするのは、シオンとは違い友愛だと知っているためだった
以前はそれでも良かったのに、今ではそれが辛い
「……あはは。いきなり黄金聖衣纏って登場するから驚いたよ!何か隠してると思っていたけど、まさか黄金聖闘士になって現れるなんて想像してなかった」
「ハクの間抜けな面を見てみたかったからな。案の定、成功と言えるようだ」
「ちょっと…それって私が今、間抜け面だったってこと?」
「察しがいいな」
空元気のハクにシオンは何も触れずに同じように何事もなかったと振る舞う
まるで二人で過ごしていた時間を確かめるかのように笑い合う二人だったが、其処に何処からか声が掛った
「ハクさん、でしたか?」
「…貴方は?」
現れたのは、神官の類である衣装に身を包んだ初老の男であり、彼はハクに近寄ると一度お辞儀をして柔和な笑みを浮かべて答えた
「私は総主教のテオス。紡ぎ手として選ばれた貴方を御迎えに参じました」
二人の間を引き裂くように一陣の風が吹く